最初の盗賊、最後の皇子。
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ことの発端は、数日前。
「陛下からの勅命、ですって?」
長い足を組み替え、シャーリーはテーブルに肘をついた。
自然と小声になるが、ここには身内しか居なので、一応その必要はない。
場所は、アバロンの歓楽街…小洒落たバーの2階に一部屋だけある、会食向きの個室だった。
ここの店主は、何かと融通を利かせてくれる。
今回も、この面子で顔を見せるや否や、上へ通してくれた。
世間の人々は、彼らを見てどういった関係のグループだと思うだろうか。
豪奢な巻き毛で大胆に開いた背中を覆い、豊満な胸元も大きくあけた革服の美女。
長い桃色の髪を高く結い上げ、質素だが可愛らしいワンピースを纏った少女。
眼鏡をかけ、いかにも知的な雰囲気を醸し出す、長身痩躯な金髪の男。
そして、柔らかな緑色の髪を肩で切りそろた、一瞬性別を間違えそうな顔立ちの青年。
それぞれ単品で居るだけでも人目を引きそうだが、そんな4人がまとまっているのだ。
本来なら、目立たない筈がない。
しかし、店主が気を利かせた理由は、それだけではない。
彼らは、冗談抜きで、時の皇帝・ジェラールから密命を授かるような立場なのだ。
正確には、それを受けたのは緑髪の青年――リチャードであり、彼がその仲間として選んだのがこの面々なのだが。
当のリチャードは、小さく溜め息を吐き、「勅命…っていうのは大袈裟だろうが、まぁそんなところだ」と言った。
「ただ、これは陛下の個人的な用件ではない。
程度がいかがなものかとはいえ、アバロン市内で起こっている事件の解決が、依頼の内容だ。
紛うことなき公務だが、如何せん出来るだけ秘密裏に、ことに当たる必要がある。軍を動かす訳にはいかないんだ」
「それって、責任重大じゃないですかぁ!!」
ポニーテールの少女…メアリーが素っ頓狂な声を上げるが、その隣に座る兄・ライブラは、「そういうことですか」と冷静に呟いた。
「おおよそ、想像はつきました。
その事件というのは、最近巷で噂の泥棒騒ぎですね?」
「さっすがライ兄、話が早い。
警備隊が何度も撒かれてるようなやつが相手だ。小回りが利かない軍やら術士隊を動かせば、すぐ嗅ぎつかれて逃げられる。
となれば、少数の部隊で、出来るだけ静かに動くしかない」