最初の盗賊、最後の皇子。
「もしかしたら、初代もこんな感じだったのかなぁ…」
「初代?あぁ、シティシーフのか?」
「そ。ちなみに、初代も"キャット"って呼ばれてたんだ。
アタシは、それに肖った2代目キャット」
「なるほど…。というか、100年前にうちの祖先に協力した密偵っていうのも、お前みたいな女盗賊だったんだな」
てっきり、スパローのような男の密偵だろうと思っていた。
もちろん、シティシーフについては謎が多い。あくまで、リチャードの勝手なイメージによる思いこみである。
「アタシたちの手元にだって、大した話は残ってないよ。
初代が、街中で活動してた女盗賊ってだけで、当時の皇帝陛下に拾われた経緯もよくわかってない。
でも、今のシティシーフに息づいてる『義賊の誇り』みたいなのは、初代から伝えられたって言われてる。
初代が皇帝に仕えたのも、利害の一致とかじゃなくて、単純にその皇帝のことが好きだったんじゃないかな。
それが友情なのか、敬愛なのか、恋愛なのかは知らないけど、ね」
そう言って、キャットはまたも器用にウィンクしてみせた。
そう言えば、シティシーフの初代と接触したジュリアン帝は、生涯独身だった筈だ。
本人は病弱だったと聞くし、何しろ25歳の若さで亡くなっている。
そこに疑問は生じないが…もしかしたら、その裏に秘めたる関係があったのかもしれない。
これも、あくまで勝手な妄想だが。
「ん?どうかした?」
「いや、なんでもない。ちょっと考え事をな」
「あっ、もしかして、アタシに惚れた?
お姉さん、年下の男の子は嫌いじゃないゾ」
「馬鹿か。俺に幼女偏愛の趣味はないからな」
「誰が幼女だ!この毒舌皇子!!」
「イテッ!!本気で蹴飛ばすな!この化け猫娘が!!」
こんな会話が、夜中の宮殿で行われているとは、誰も思わないだろう。
端から見れば、仲の良い兄妹喧嘩のようにも見えるが、2人の関係を思えば奇妙なものだった。
一国の皇子と、女盗賊。
酷く不釣り合いなようで、どこか似通っている2人は、まるで子猫がじゃれ合うような口喧嘩を、飽きるまで続けていた。