最初の盗賊、最後の皇子。
「…こういうもの、って?」
リチャードが小首を傾げると、その仕草が気に入ったのか、キャットはカラカラと笑った。
「なにが可笑しいんだよ!」
「アハハ、いやね、うん…なんか可愛いなって。キャハハ♪」
「誰が可愛いだ!まったく、この笑い上戸兄妹は…」
すでに涙ぐむほどに笑いながら、キャットは「ゴメンゴメン」とリチャードの肩を叩いた。
「いやぁ、すぐムキになるとこは年相応だねぇ。お姉さんはなんか微笑ましいよ」
「なにがお姉さんだ!!ガキのくせに」
「ひどっ!アタシこれでも22歳だもん!!」
「…嘘だよな、それ」
「ここへ来て真顔で言うな!!ホントなんだからっ!!」
とてもとてもそうは思えないが、本人の主張が正しければ、この金髪の少女は自分より4歳も年上ということになる。
「というわけだから、ちょっとはアタシのこと敬いなさいよ!」
「…んなペッタンコな胸張られたって、なんの威厳もありゃしねぇよ」
「こっ、この口が言うか、人が気にしてることをぉ!!」
「バカ、首しめんなよっ!苦しいだろうが!!」
苦しいと言って引きはがしはしたが、首にかけられた体重は、驚くほど軽かった。
小柄な上にこの痩躯だ。
やや釣り目気味のくるんと大きく、美人というよりは「可愛い」顔立ち。
どう見ても、十代半ばの少女である。
とりあえず、わざわざ本人が気にしていることを、これ以上突っ込むこともあるまい。
リチャードは、「で、結局なんなんだ?」と聞き直した。
「えっ、なにが?」
「いや、だから…本来密偵ってのはどうとか、こうとか」
「あぁ、うん。
ある程度損得考えなきゃならないのは、そりゃそうなんだけどさ。
『誰かの為に』っていう、行動理念…とでもいうのかな?そういうのが、あって然るべきだと思うんだよね。
リチャードは、カリスマっていうの?あんたの為になら、頑張れるって人に思わせる何かがあるよ。
所詮密偵なんて、表舞台からは見えない存在。どんだけドでかいことやったって、誰もアタシたちのことを知ることはない。
でも、それをあんたが率いて、ことを成してくれるなら、それに喜んで協力したいって思える。
あんたの為に動けるなら、密偵冥利に尽きるってことよ」
そう言って、キャットはパチンと片目を瞑ってみせた。
向こうはあくまで笑顔だが、言っていることはかなりスケールが大きい。
リチャードは、照れ隠しの意味もこめて「そんなに持ち上げたって、何も出ないからな」とキャットの頭を小突いた。
その手を「イタッ」と振り払うも、あくまでキャットは笑顔である。