最初の盗賊、最後の皇子。



「これが嫌なヤツだったら、無理難題押しつけて追い返すとこだが…ここまで言ってきた人間相手に、んなこたしねぇよ。
今この瞬間から、お前はオレにとっちゃ信頼できる…仲間として身内扱いして良い男なんだよ。

ぶっちゃけてい言やぁ、"友達"ってやつだ」

「トモダチ…?」

「そ。まあ、オレ個人にとっちゃそうってだけで、それで組織を動かせるかはまた別の問題だがな。
すぐにとは言わんが、いずれ何とかしてやるよ。
"運河要塞の攻略"…ただ、オレとしても組織としても、知らない人間についていく気はないぜ。
お前がその指揮官であることが、条件だ」

「あのな、俺の軍での地位が大したことないことくらい、知ってんだろ?
運河要塞攻略の為の軍となれば、俺が動かせる規模じゃ…」


渋るリチャードに、スパローは「そんな甘ったれたこと、言ってる場合か」と、ここで初めて顔から笑みを消した。

「お前な、自分がどんだけ嫌がってようが、皇子だろ。更に言えば、次期皇帝だろ。
使える物はなんだって使え。地位だろうが権力だろうが。そうでもしなきゃ、出来ることも出来なくなる」

「だが、俺より相応しい人間なんて他にいくらでも…」

「だから、そうやって逃げるなって言ってんだ。
お前が、諸々のリスクを冒してまでオレたちに会いに来たのは何のためだ。
立場に降りかかってくる面倒を被りたくないのは分かるが、今はそれを押し切ってでも立ち上がる所じゃねぇのかよ。

大体、お前が軍人になったのだって…どうせ、自分が皇族としての義務を放棄したことに、多少の後ろめたさがあったからとか、そんなんだろ?」


図星だった。

この男は、本当に洞察力が鋭い。
リチャードは観念したように、「その通りさ」と頷いた。


「父が死んでからというもの、俺も母もアバロンの貴族社会に居場所なんかなくなった。
それでも、庇護し続けてくれた祖父に、なんだか申し訳なくてな…。
せめて軍人として、国に尽くすことで恩返しでも出来たらと思ったまでさ。

祖父ももう、それなりの歳だ…生きているうちに、運河要塞の奪還だけでも、その目で見てもらいたい」


「なるほど…お前、良い孫だな。
だったら尚更、皇帝があんたを跡継ぎにしたい理由だって分かる。

血族だからってのは当然だろうが…そういう義理を通す所を、陛下は気に入ってるんだろうよ。

良いんじゃねぇか?その期待に応えてやってもよ。
皇帝になるならないじゃねぇ、それが親孝行…いや、祖父孝行ってもんだろ」


俯いていたリチャードが、ふと顔を上げると、スパローは再びニカッと笑った。


「ま、あくまでお前がそうしたけりゃの話だ。
それについちゃぁ、オレにどうこう言う権利もねぇからな。

ただ、組織の頭としては…運河要塞攻略は、お前についていくことはできても、国家や軍に追随することはできない。
信頼できる人間以外には、付いていかない…オレたちの能力は、使い方によっちゃ国家が転覆しかねないからな」

「…まぁ、考えてはみる。あまり期待はしないでくれ」


そんな曖昧な返事に、スパローは「オレは、お前が"やる"方に賭けるがな」と肩を竦めた。


「そういや、それとはまた別の話だが…ここの地下水道に、面倒なモンスターが住み着いてな。
そいつがちっとばっか厄介で、ちと困ってんだった。

ここいらで、バシッと協力して倒してくれる良いトモダチとか、現れると助かるんだけどよぉ…」

「なんだよ態とらしい!!倒してくりゃ良いんだろ、倒してくりゃ!!」


組織として、国としてはともかく。

リチャードという悩み多き年頃の青年が、からかいながらも話を聞いてくれる良い友人を手に入れたことは、間違いないようであった。


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