最初の盗賊、最後の皇子。


「で、あんたとしてはオレたちをどうしたいんだ?リチャード。
皇族としてじゃなく、個人として来たってことは…なんか、思う所があるんだろ?」

「思うところというよりは、あんた達が敵じゃないってことを確かめに来た…とでも言うべきか。
今後、かつてのように協力体制を敷いて行けるなら、俺としてはそうしたい。

あんたたちの実力は分かったところで、正直を言えば…スルーできるほど、小さい物じゃない。
もちろん、権力の下に縛り付けるつもりはない。ただ、これからのバレンヌの歴史において、その力が必要になる瞬間が必ずあるだろう。
その時の為に、もう一度協力を取り付けたい」

「その時、ねぇ…具体的には?」


真っ直ぐと向けられた視線に、リチャードは静かに目を伏せ、小さく「運河要塞だ」と答えた。


「ヴィクトール運河の要塞は、難攻不落…南北バレンヌの再統合の為には、その砦を落とすしかない。
だが、どんなに正攻法で攻めたところで、大量のモンスターと堅い鉄扉に守られた要塞に押し入ることは難しい。

押して駄目なら、引いてみるしかないだろう?」

「確かに、オレたちが裏から探せば、裏口のひとつも見つかるかもしれんが…そんな危険な仕事を、ほれ協力しろとやらせるつもりか?」


スパローの目の奥が細くなる。

リチャードは「まさか」と首を横に振った。


「あんた達が求めてるのは、報酬云々じゃないだろ?
こちらが信用できる人間だということを証明すれば、手を貸してくれるというなら…俺は、それに乗ろう」

それを聞いて、なにかが可笑しかったのか、スパローは腹を抱えて笑い出した。

リチャードは眉間に皺を寄せるが、「いや、気を悪くしないでくれ」とスパローは手を振る。

「悪りぃ悪りぃ。なんつーか、あんたがあまりにも真面目なもんだから、つい、なぁ…アハハ」

「笑うな。俺はガチで本気だ」

「だから余計にってんだよ…あのな、オレたちはシティシーフとはいえ盗賊だぜ?そんな人間相手に身体張ろうって人間がどこに居んだよ」

「ここに居るって言ってんだろ。…だから笑うなっての!」


リチャードは声を張るが、当のスパローはよほどツボに入ったのか、ケタケタと笑い転げていた。


「ハァハァ…あー、おかしい。こんなに笑ったの久しぶりだぜ」

「ああそうかい。だったらいい加減、こっちの話を聞いてくれ」

「はいはい。…いやぁ、若いっていいな。なんつーか、オレが昔どっかに忘れてきたもんを持ってるとでも言うかなんと言うか」

「…悪いが、そんなに違わないだろ。あんたいくつなんだよ」


どちらかと言えば幼顔で女顔なリチャードは、それにコンプレックスが無いわけではない。

スパローはその反応すら可笑しかったのか、相変わらず笑いながら「あんたより6つばっか上だな」と息も絶え絶えに答えた。


「お前、最高だな。皇子様じゃなかったら、組織で引き抜きたいくらいだぜ」

「あぁ、そうか。で、どうすれば信頼してもらえるんだ?」


ようやく笑い止んだスパローは、「だから、引き抜きたいって言ったろ?」と肩を竦めた。


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