最初の盗賊、最後の皇子。



***


通されたのは、更に奥にある小さな部屋。

ボロボロの長椅子2脚と、古ぼけたテーブルが置いてあることからして、ここが応接間であるらしい。

古めかしいランプに火を入れ、「テキトーに座ってくれ」とスパローはソファを指した。


「生憎、人を通せるのはこんな部屋しか無いんでね。手狭で悪いが…」

「話をするだけだ。充分だろう。
別に俺は、立ち話だって構わないさ」

「ハハ、随分と庶民的な皇子様なこった。
ま、そんなんだから相手をする気になったんだけどよ。
うちの馬鹿猫娘がちょっかい出した…いや、実際には出されたのかもしれんが、うっかり助けられちまった日にゃ、どうしたもんかと思ったさ。
が、作った借りは返す。それがシティシーフだ」

そう言って、スパローはリチャードの向かいに座り、長い足を堂々と組む。

世間からすれば、皇帝の嫡孫相手になんたる態度ということになるのだろうが、リチャードの方としてもこの方がありがたい。


「どこから話したもんか…とりあえず、あんたはオレたちについて、どこまで知ってるんだ?」

「知ってるかと聞かれれば、答えられることなんざないが…推測というか、想像だな。
100年前、3代前の皇帝に仕えた密偵…その後継者集団。だから、あの塔の一室を知ってたんだろう?」

「その通り。ま、100年間ずっと色々活動し続けてたわけじゃねぇさ。
オレがここの頭を継いだのは、ほんの5年ほど前でな。
先代は、頼まれなきゃ特に何もしない人間だったが、オレはどうにもお節介というか、困ってる人間はどうにも放っておけない性分でね。
しかもあのキャットは、それに輪をかけてお人好しなもんだ…困ったことに」


キャットの話では、あの人形の持ち主である女の子に頼まれたとのことだが…どう考えても、報酬が発生しているとは思えない。

リチャードは「あんたも、色々大変なんだな」と苦笑した。


「ま、それがオレたちの本分だ。別に間違っちゃねぇさ。
盗むこと…というよりは、拾ってくること、手に入れることだな。
物だろうが、情報だろうが、それに関しちゃオレたちの右に出るモンはねぇと自負してんだが…生憎、設立当初の目的はスッカラカンに干されちまった」

「これに関しては、存在そのものを知らされていなかった先々帝に文句を言ってくれ。
…いや、恐らくはジュリアン帝と、あんた達の初代だけの秘密裏な契約だったんだろうな。
あんたたちが拠点にしてるあの部屋…塔の入り口はともかく、部屋の鍵だけはどうしても見つからなかった。
故意に隠されたか、貸してる相手に預けてあったとしか思えない」

「どうだろうな…少なくとも、現在のシティシーフには伝わってないがな。
部屋だけは、勝手に使わせてもらってるが。なんせ、窓から出入りするのに鍵なんざ必要ねぇしよ」

それは、確かに。

となると、鍵はどこへ消えたのか…今となっては、確かめる術もないのだろうが。

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