最初の盗賊、最後の皇子。
そして、何をどうしたのかは分からないが、その手で窓を開けると、片手で荷物を押し込み、自分もそこへよじ登る。
そのまま、まるで自宅へ帰ったかのように、するりと中へ潜り込んだ。
「随分、手際が良いですね…。リチャード、中はどうなってます?」
「俺が昼間、城の中から登ったところ、内側から鍵がかかってた。
その鍵も、かなり昔から行方不明らしい。誰も気にしないから、放置してただけなんだろうが…。
一応、内側から鍵を開けて逃げられることを危惧して、ドアの前に瓦礫を山積みにしておいた」
「なるほど。さすがはリチャード、そういう悪戯と悪ふざけは得意なものですね」
「なんだよ、人が一人で苦労してやったことを!!」
「お兄様方、静かにして下さぁい!泥棒さんに気づかれちゃいますぅ」
メアリーの指摘に、リチャードは思わず開けられた窓を伺った。
幸い、特に反応はない。
「まったく、仕方ないわね。
で、どうするの?いつまでもここにいたって、お馬鹿さんなだけよ」
シャーリーはそう言いながら、静かに小剣を抜いた。
できれば傷つけたくはないが、向こうが強行手段に出るならやむを得ない場合もある。
城壁と窓の間は、さほど幅もなく、飛び移るのは容易だろう。
しかし、その城壁と現在彼らがいる民家の屋根は、足をかけるものが無ければ、よじ登るのは難しそうだ。
もたもたしていれば、向こうに感づかれる。
リチャードは、背負っていた愛剣を、ベルトごと外した。
「こいつを壁に立てかければ、一瞬の足場にはなる。壁の高さからして、乗り込むのは俺が妥当だな。
メアリーはここから、弓を構えて待機。いざとなったら射ってくれ。
ライ兄は、メアリーの側でタイミングを見計らってほしい。
シャーリーは、城壁に張り付いて、窓の側にいてくれ。
追いかけ回すことになれば、足の速いお前がすぐ動ける方が良い」
「わかりました。
一応、この下のお家には屋根に上がる許可を得たとはいえ、この時間です。
できるだけ静かに、穏便にいきましょう」
あくまでできるだけ、とライブラは小声で付け足した。
静かに、というのは願望で、あくまで理想なのはわかっていた。
一向は頷いて、それぞれ所定の位置に着く。