最初の盗賊、最後の皇子。
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かくして一行は、アバロン東地区の民家に依頼し、暖炉の煙突から屋根の上へ上がったのである。
やいのやいの言っている場合ではない。
リチャードは、「俺とライ兄が先に行くから、シャーリーとメアリーは後方を頼む」と言って、城壁に向かって歩き出した。
リチャードが先頭を行き、すぐ後ろにライブラ、その後ろにシャーリーに支えられたメアリーが続く。
なんだかんだ言っていたが、なかなかの人選だとライブラは思う。
メアリーは高い所こそ苦手だが、夜目が効く上に弓の腕は抜群だ。
そしてシャーリーは、身のこなしが軽く足も速い。
正攻法が通じない相手に対して、その軽業と小剣は有効な武器となる。
さしずめ自分は、参謀役といったところだろう。
水の回復術は、あると無いとでは生存率も違う。
そう誉めたところで、リチャードは「俺の数少ない友達をかき集めただけだ」などと、軽口を言うだけだろうが。
「俺が調べたところ、東の城壁に沿った離宮は、これとあそこの2ヶ所。
いずれも何年も前から使用されてないし、城の中から人間が出入りした形跡もない」
「恰好の隠れ家ってわけね。まるで、わざわざ拠点にしてくれと用意したかのようだわ」
シャーリーはそう、不敵に笑った。
メアリーは意味がわからずキョトンとしているが、そこにライブラが口を挟む。
「実はそれ…あながち間違いでもないかもしれません」
「どういう意味だよ、それ」
リチャードが聞き返すと、ライブラは「昼間図書館で、興味深い記述を見つけましてね」と小首を傾げる。
「今から100年ほど前…ちょうど、南北バレンヌが事実上分裂した直後ですね。
その頃の皇帝は、弱冠20歳のジュリアン陛下…レオン陛下の伯父上に当たる方です。
先帝の戦死により、せわしなく皇位を引き継いだものの、南バレンヌは独立した直後。
他にも内外に問題を抱えていた上、ジュリアン陛下は生来病弱で、床に臥せられることも多かった。
すると当然、皇帝の力が弱まったのを良いことに、好き勝手しだす連中がいるわけです」
「ようするに、今と同じ状況ってことか」
「そうですね。近いかもしれません。
そこでジュリアン陛下は、直属の諜報員を雇って、好き勝手していた人間に探りを入れ、動かぬ証拠を突きつけて罰したそうです」