最初の盗賊、最後の皇子。
ライブラは、小さく息を吐いて、懐から愛用の帳面とペンを取り出した。
そして、サラサラとアバロン市内のざっとした地図を描く。
「アバロンは、城を中心に大まかに4つのエリアに分かれます。
南の城下町エリア、西居住区画、東居住区画、北の工業商業地帯…被害はどこに集中しているわけでもない。
目撃情報の少なさや展開の速さからしても、向こうの拠点は、このいずれにもアクセスし易い場所にあると考えて間違いないでしょう」
「東西南北いずれにもアクセスし易い場所…ってまさか!?」
「そう考えるのが、一番妥当かと」
ライブラは、地図の中心にクルリと丸をつけた。
アバロンの中心、バレンヌ皇帝の住まうアバロン城――。
「城の中に、盗賊の拠点が?」
「中なのか付近なのかはわかりませんが、これぞ灯台下暗しですよ。
保安局が城内を漁るわけがないですし、あの城は広すぎて、住んでいる人間ですら把握しきれていないでしょう?」
言われてみればその通りだった。
生まれた時からあの城に住んでいるリチャードですら、入ったことがない場所はいくらでもある。
あの城は、一棟で成り立っているわけではない。
一部は、城内待機員や皇帝直属部隊員の為の兵舎となっているし、皇室御用達の鍛冶屋も、何代も前から住まわせている。
そして、現在は全く使われていない離れも、いくつか存在した。
「なんてこった。それなら、辻褄が合う。
さらに絞り込むなら、恐らくは城壁沿い…しかも見張りのいない東側だ」
「そうすれば、割り出しもできるでしょう。
リチャード、明日の夜までに、該当する場所を見つけ出して下さい。
向こうが拠点に戻ってくるタイミングを見計らって、罠にかけます」
くいと眼鏡を押し上げて、ライブラは静かな声で言った。
それにリチャードは、「わかった」と息を呑む。
「向こうは城壁を伝ってくるだろう。
こちらも、東地区を屋根伝いに行った方が遭遇できそうだ」
「問題は、高所訓練なんて受けていない我々だけでどうにかできるか、ですかね…。
シャーリーはともかく、メアリーは高い所には慣れてませんから」
「別に、無理やり全員が上がる必要はないさ。
メアリーには、地上から弓で援護してもらうこともできる」
なんとかなるさ、とリチャードはグラスの中身を飲み干した。