「好きだけど、大嫌い」



もう、バカバカ!!シアの大馬鹿!大っ嫌い!!
なんでもう、いい歳してあんな子どもみたいなこと言うのよ!!

そりゃね、私たちより前に出て、身体張って戦ってるのは分かってるわよ。
もちろん、命かけてるのは私たち猟兵だって同じだけど…。
で、ケガしたのは見れば分かるし、痛そうだなとも思うわよ。

ちょっと手当くらいしてあげようか?くらいのつもりで、「大丈夫?」って言ったのよ。私は。
それに対して、なによ!!

「お前が嘗めてくれたら治るさ」

とか言って、さあ嘗めろとばかりに指出したりする?普通?!
しかも、まったくもって余裕というか、むしろニヤニヤ笑ってるし!!

それが、まだオフの時というか、せめて城内警備の時くらいなら良いわよ。
よりにもよって、皇帝陛下の領地視察に同行中で、しかもすぐ側に陛下がいらっしゃるっていうのに!!

いくらそれほど敵が多くないからって、そんな巫山戯てる場合?!
それ以前に、傷口嘗めろなんてそんな恥ずかしいこと、人前でできるわけないでしょうが!!
しかも、なんで皇帝陛下の御前でそんなことを普通に言えるのよ…もう。

マゼラン陛下も、なんというか…ノリの良い方だから、「おうお前ら、仲良くていいなぁ」とかおっしゃるし。恥ずかしいったらないわ…。
ベル姉さん…イザベラ隊長だって、助け船のひとつも出してくれればいいのに、一緒になって笑ってるし。もう!

私が「ふざけないで」って言えば、向こうは「なんだよ、前はやってくれたのに」とか言うし。
そりゃ、あの時は普通に家の中だったし、仕事中じゃなかったし、お互いしか室内にいない状態だったし、私が落としたカップのせいで付いた傷だったし…それでも、充分恥ずかしかったわよ!!
大体、いくら付き合ってるからって、皇帝陛下の前でいちゃつく馬鹿がどこにいるのよ!!

…というか今更だけど、なんで私、シアと付き合ってるのかな?
あんな、大酒飲みのくせに中身は子どもみたいな男の、どこが良いのかとか言われても、正直答えられないのよね…。
世の中に男なんか、いくらでも居るのに…でも、他に付き合ったことのある男なんか居ないんだから、比べようがないのよ。

大体そうよ、シアはいつだってそう!
恥ずかしい台詞をさらっと吐いて、さりげなく私を逃げられないようにするんだから。
あの時だって…私のファーストキス、さり気なく奪ってくれて。
まだ付き合うとか、そういう話にもなってなかった頃だったのに。

あ~あ、考えれば考えるほど、馬鹿らしいわ。
強引でろくでなしで、どうしようもない人間じゃない。
あれで私より年上だっていうんだから、どうかしてるわ。

…まったく、じゃあなんで、こんなに好きなんだろう。

こんなに大嫌いって思うのに、どうしてまた会いたくなっちゃうんだろう。
一緒にいると、なんか幸せで…きっと、今回のこともどうでもいいやって思っちゃうんだろうな。



でも、やっぱり人前で傷口を嘗めろとか言うのは、どうかしてるわよね!!




―1195年夏、 
猟兵キャサリンの手記。
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