「彼が髪を切らない理由」


…ん?どうしたんだい?
えっ、僕が髪を編んでない?しかも服がいつにも増して派手だって?

そう言われると、ちょっと傷つくなぁ…。
あっちが仕事用、こっちが普段着というか、本来の僕なんだって。

さすがに、そのままにしておくと潜入する時とかに絡んだりして、危ないからね。
服も、もっと目立たないのにしろっていうから、あそこに落ち着いたんだって。それだけのこと。
だから、元々の僕はこう…というか、今の僕が一番自然体なんだって。

…え?そんなに長いかなぁ。
確かに、ずいぶん長いこと伸ばしっぱなしだからね。
フェレット姉は、危ないから切れってうるさいんだけどさ。もう、後ろ髪が無いと逆に落ち着かないんだってば。

それに、邪魔になることばっかじゃないよ。
これだけの長さがあれば、情報収集に女装するのも簡単だしさ。

え、ちょっと。そんなに拗ねないでよ。
いくら僕でも、本物の女の子になんか敵わないって!!
…まあ確かに、ちょっと可愛い格好で歩いてると、色んな人間に普通に声かけられるけどさ。
まあ、どちらかと言えば嬉しいけどね。うん。

シアにも言われたよ。
「お前、女だったら絶対男にモテてたのにな」ってね。
だから、僕はこう言い返してやった。

「おあいにく様。僕は男でも男にモテるんだよ」

別に、そっちの気があるわけじゃないけどね?一応。
そもそも、シーフなんてそんなにいかつくなんてなれないんだし。

…それはともかく、じゃあなんで落ち着かなくなるくらい昔から伸ばしてるのか。って?

なんでかなぁ。強いて言うなら、この髪が気に入ってるんだよね。
自分で言うのもなんだけど、サラサラだし良い色だと思わない?

別にナルシストだとは思わないけど、僕はこの髪色も瞳の色も、なかなかカッコイイと思ってるんだ。
だからって訳じゃいけど、休みの日くらいオシャレしたっていいじゃん。

あっ、このストール?
肌触りが良いでしょ。お気に入りなんだ。
実は、非売品。というか、手作り品。ある日突然もらったんだ。

…違うよ、そういう人じゃない。くれたのは、僕の育ての親さ。

いつか、君にもすべて話したいな。
まだ、シアにもテリーにも言ってない、とっておきの思い出話をね。

ごめん、今はまだ言えない。
そうだね。いつか…君が皇帝をやめる時が来たら話すよ。

…そっか、それだと、僕が君より長生きしないとならないのか。
それはちょっと難しそうだな…だって、君はなんだかんだ言ってしぶといからね。
怒らないでよ、褒めてるんだって!

でも、いつかきっと、ね。
そのくらい勿体ぶっても良いくらいの話だから、期待して待っててよ。

どんなに先になったって、僕の中では絶対に風化しない思い出だから、さ。



―1201年春、
皇帝キャサリンの手記「ロビン曰く」

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