彼の地に花が咲かずとも


「まぁ、必要があるならそれも吝かでは無い…ってところかな。
そういう君こそ、アバロンへ弓術を教えに行けば良いじゃないか」

親友の言葉に、サジタリウスはすぐさま「それはない」と即答した。

「向こうからすりゃ、ヤウダは剣士の国だぜ?
剣の人材は必要とされたって、ヤウダから弓使いなんか呼ばれるわけがねぇ」

「そうか?武人たるもの、弓は教養のうちだぞ」

「だから、教養止まりなんだよ。
極めるのは、うちみたいな家元だけで充分。あとは、さらっておけば良いだけの話さ。
大体、今帝国にどれだけ弓の流派があると思ってんだよ」

サジタリウスは、滅多に開かない世界地理の手習い書から、付属の地図を引っ張り出した。
そして、それを指差しながら解説していく。


まず、アバロンに元からある、帝国猟兵部隊に伝わる弓術。
これは、剣では届かない遠くの敵に対抗するための、速射や乱射が主とされる。

次に、ステップの移動民族・ノーマッドの弓。
元々騎馬民族である彼らは、馬上からの射撃を得意としており、騎射において右に出るものはない。

更に、サバンナのハンターは、その名の通り獲物を仕留めることを目的とした弓使いだ。
移動する敵を、確実に捕らえることに長けているという。

そして、サラマットの女性戦闘民族・アマゾネス。
弓の他、槍や斧などを自在に使いこなす彼女らは、身軽さを生かし自在に武器を持ち替え戦うそうだ。


片や、ヤウダの弓術は、むしろ精神面を説くものだ。
弓を引くのに伴う集中力や、その儀礼を身に付けるという文化的側面が大きい。

ワカサ家の流派は、その中ではかなり実践的な方だが、弓はあくまで武人が礼儀作法の一部として学ぶものであり、戦場で使われることは殆ど無い。

習い事としての人気は高いが、それで食べていけるのは教える人間だけである。


「勿体無いな。サジの弓は美しいのに」

「…誉めてくれんのは嬉しいが、他の言い方は無いのかよ」

地図を畳ながらサジタリウスが言うと、シュウサクは「そう思ったまでさ」と苦笑した。

「サジの弓には、迷いや歪みがない。
剣でも弓でも、それを極めんと真っ直ぐ突き進むのは美しいことだって、父がね」


照れ隠しなのか、サジタリウスは「別に、他にやることが無いだけさ」と素っ気なく答えた。

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