彼の地に花が咲かずとも
「…ところで、サジ。卒業後の予定は提出できたかい?」
「一応。ってか、家業手伝い以外になんて書きゃ良いんだよ」
「僕もそう書いたけど、他に書きようがないから仕方ないさ」
正直、卒業してからのことなど放っておいてほしいが、学校がバレンヌの国営という形になった以上、「進路調査」なる物が必要らしい。
この2人の共通点として、少し歳の離れた兄が居て、彼らがすでに家の跡継ぎとして決められていることがある。
普段は「気楽な次男坊だし」と言って自由気ままに生きてはいるが、気楽さは同時に自力で未来を切り開けという条件付だ。
武道家一族の次男坊が、師範として家業を手伝うのはよくある話で、実際2人の家もいくつか分家がある。
とはいえ、12歳で仕事に就くのが一般的なヤウダであっても、独立できるほどの年齢ではない。
「シュウサク、お前ならアバロンへ行けるんじゃねえか?」
「帝国兵になれって?無理だよ。剣の勝手が違いすぎる」
「いや、だからヤウダの剣士としてさ。
イーストガードのアバロン駐在員って役職があるだろ」
そういうことか、とシュウサクは苦笑した。
皇帝ディアネイラによって造られた、アバロン新市街。
そこには、世界中から腕の立つ人間が集められる。
メルーのデザートガード、サバンナのハンター、ステップのノーマッドなど。
各土地の戦闘技術を持つ戦士たちが集められ、国家防衛の任務に当たる。
アバロンの帝国軍とは別に、この新市街在中戦士団を結成したのは、各地の武術を上手く取り入れていく為だ。
サイゴ族出身で、様々な土地から集まった傭兵団で活躍し、皇帝に選ばれたディアネイラ帝は、やはり視野の広い人物らしい。
もちろん、ヤウダのイーストガードからも、駐在員が派遣されている。
現在は、テッシュウというシュウサクの兄弟子がその任に当たっていた。
「どうだか。僕じゃ、テッシュウ兄さんほどの腕も無いし、無理じゃないか」
「今すぐじゃなくて、いずれって話だよ。
名門チバ家の息子で、尚且つ後継ぎじゃないお前ならピッタリだろ?」
そう言われてみれば…シュウサクは、小さく息を吐いた。