彼の地に花が咲かずとも
"天命"。
150年前から続く術士の力と、霊峰チカパに守られしヤウダの大地から生まれたサジタリウスに、天が授けたもの。
普段なら、「大袈裟だ」と言って笑い飛ばしたかもしれない。
しかし、真を見据えるかのような親友の言葉は、サジタリウスの胸のどこか奥深くを貫いた。
「シュウサク、俺は…」
「ごめんサジ、重圧をかけるつもりじゃないんだ。
でも、君なら応えられる。君を必要とする全ての存在に。
…僕は、そう思う」
サジタリウスが顔を上げると、シュウサクは微笑んでいた。
いつものように、落ち着いた表情で。
「…お前には敵わないな、シュウサク」
「なにがだい?僕はそう思ったまでだよ」
「お前の言うことは、なんかそんな気にさせる。
お前こそ、アバロンで必要とされるんじゃねぇか?
人徳あるから、人の上に立つのとか向いてるだろうし」
「いや、どうかな…。
でも、それも面白いかもしれないな。
バレンヌ帝国は広いから、僕らはまだまだ知らないものがたくさんある。
アバロンは、多くのものが集まる土地だから、きっと色んな発見があるだろうし」
少し、考えてもみる。
あと数年して、自分が剣士として戦えるようになったとして。
それから、アバロンへ行ったら、どうなるか。
…もちろん、答えなど分かるわけもない。
だからこそ、試してみたい気もする。
「サジ、あと7年…いや、5年したら、僕もアバロンへ行こうかな」
「5年?」
「ああ。その頃には、テッシュウ兄さんのアバロン駐在の任も終わるだろうから。
それまでに、アバロンでも通用するだけの剣士になって…僕が、次の駐在員になる」
「なるほど。シュウサクならいけるだろうな。
ようするに、俺も最低5年は粘れってことだろ?」
「君が、僕の描いた絵空事に付き合ってくれるなら」
親友の目を見つめ返し、サジタリウスはニヤリと笑った。
「お前が持ちかけてきた話を、俺が断ったことあるか?」
「…いや、無いね。僕の約束を君にすっぽかされたことならあるけど」
「忘れてくれ、それは。
…とにかく、そうとなれば俺は迷わないぜ。
アバロンへ行って、5年で歴とした術士になってやる」
「じゃあ、僕はヤウダ剣士としての修行に精進する。5年後には、アバロンで君と並べるように」
約束だぞ。と、どちらからともなく言った。
そして、どちらからともなく小指を差し出し、きゅっと結ぶ。
「…って、そうだその前に」
「どうかしたかい?」
「いや、俺がそう決めたのはともかく…母さんを説得しないことには、どうにも」
「…そうだね」
その説得に、卒業式までの貴重な一週間を費やしたことは、もはや仕方のないことだった。