彼の地に花が咲かずとも
そもそも術士の認識が曖昧なサジタリウスには、どうしてもその先が想像できない。
それにシュウサクは、「無理もないよ」と苦笑した。
「…サジ、考えてもみよう。
君は、多分ヤウダでも他にやった人がいないことに対して、その未来を想像しようとしてるんだろう?
だとしたら、そんな答えはどこにも無い。君が最初の答えを作るしかないじゃないか」
「…俺、時々お前が本当に俺と同い年なのか、疑いたくなるぜ。
なんで冷静に、そういう頭になるんだよ?」
「いや、冷静っていうか、なんというか…先を読むのがちょっと得意なだけだよ。剣士の性というか…」
そして、彼がその性で導き出した答えは、大抵当たっている。
サジタリウスは、「まったく、お前の言う通りだな」と笑うしかなかった。
「それに、一度決めたら絶対に術士にならなきゃいけないってものでもないだろ?
なら、勉強してみて無理だと思ってから、ヤウダに帰ってくれば良いじゃないか」
「…それもそっか。
でも、いくらなんでもすぐに諦めるってわけにはいかないだろ。
ヤウダ男児は根性無しとか、思われたくないし」
「そうだよなぁ…。まぁ、負けず嫌いのサジが、そんなにすぐ放り出すとは思わないけど」
アバロンへ行くということは、ヤウダの名前を背負っていくこと。
バレンヌ帝国に併合されて長いとはいえ、独特の文化を根強く持つヤウダの人間は、きっと向こうでもそう意識されるだろう。
それだけ、ヤウダとアバロンは遠い。
一度行けば、そうそう戻っては来られないくらいに…。
そう考えると、どこか物悲しくなって…シュウサクは、そっと目を伏せた。
「シュウサク?」
「あぁ、ごめん…。サジが居なくなると、寂しくなるだろうなと思って」
「そんなの俺だって同じだっての。
むしろ、俺は知らない人間ばっかの所へ行くんだぜ?行くとしたら、だけどよ」
「…いや、行くべきだよ、サジ」
親友の目を真っ直ぐ見つめ、シュウサクはそう呟いた。
その、あまりに実直な視線に、サジタリウスは驚く。
「なんだよシュウサク、急に」
「君は、きっとアバロンに…いや、バレンヌ帝国に必要とされているんだよ。
ヤウダの風を受けて育った人間に、高い魔力がある。今まで現れなかった存在だ。
だとしたらこれは、君の天命なんじゃないのか?」