彼の地に花が咲かずとも


心の内に、なにか抱えていること…それがわかったからこそ、急に点茶など勧めてきたのだろう。

確かに、なんとなく落ち着いたことに、サジタリウスは感謝した。


「なあ、シュウサク…。もし俺が、アバロンへ行くってなったらどうする?」

「サジが、アバロンへ?おばさんがじゃなくて?」

「あぁ。実は…」


サジタリウスは、先ほどリゲルに聞かされた話を、掻い摘んで伝えた。


チカパ山の恩恵を受けしヤウダの民には、風術適性の高い者が多いこと。

自分の母方は術士家系で、自分にもかなりの魔力があること。

これだけ術士の素養を持っている人間はなかなか居らず、アバロンで術士にしたいと伯父に言われたこと。


語ってみれば、まるで他人のことのようだった。

それは、シュウサクにしても同じことだろうに、彼はただ相槌は打ちながら聞いていた。


「なるほど、そういうことか。
それは、さすがのサジでも悩むだろうな」

「…脳天気なことは自覚してるけど、なんか頭に来るな、その言い方」

「ごめんごめん。でも、君の心情は察するよ。

僕らは気楽な次男坊。決められた未来もなければ、そこに道もない。
それが急に、異国の地でよく知らない仕事に就けって言われれば、戸惑うしかないさ」


まったくもって、その通りだ。

やはり、昔からの親友は物分かりが良い。
サジタリウスは「お前のところへ来て正解だったよ」と溜め息を吐いた。


「で、サジとしてはどうなんだい?アバロンで、術士になりたいと思うの?」

「それがさっぱり、自分でもわかんねぇよ。
いかに適性があろうが、俺は勉強なんかできねぇし、特技なんて弓くらいのもんだし、そもそもヤウダから出たことのない人間だぜ?
余所の土地で生きていけるもんか、まるで想像がつかねぇ」

「…君はアバロンを、なんだと思ってるんだい?
バレンヌはもはや寄せ集めの国なんだから、それほどヤウダ人が暮らしにくいとは思わないけどな…」


言いながら、シュウサクは2杯目を点てる。

そりゃそうだけどよ、と呟いて、サジタリウスはその器を受け取った。


仮にアバロンへ行って、勉強して、術士になったとして。

それから自分は、どうすれば良いのだろう?
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