彼の地に花が咲かずとも
「お待たせ。
そんな堅苦しくしないで、ゆっくりしてて良いよ。僕が点てるんだから」
「そうは言ったって、気分の問題だろ、気分の」
正直なところ、茶の湯の作法も、その昔シュウサクの祖母から習っただけなのであやふやだが、別段きちんとした茶会へ行く機会があるわけでもない。
…きっと、アバロンにはこういう茶の席も無いのだろうなと、サジタリウスはふと考えてしまった。
茶器を前にすると、どちらからともなく静かになる。
湯の沸く音、爽やかな春風が庭の木々を揺らす音、梅の花の香り…桜の花も、所々綻んでいる。
きっと、来週の卒業式の頃には、リャンシャンの桜は満開になるだろう。
シュウサクも、茶を点てるのは久々なのか、どことなくぎこちない仕草で茶筅を回している。
「…はい、どうぞ」
しばらくして差し出されたそれを、サジタリウスは恭しく受け取った。
ゆっくりと、丁寧に口に含んで、その香りと味を堪能する。
「…良いお点前で」
「ホントに?」
「ホントだって。お祖母ちゃんのと同じ味がする」
その言葉に、シュウサクは「良かった」と顔を綻ばせた。
「おいおい、ゆっくりしてろって言ったの、お前だろ?なに緊張してるんだよ」
「いやだって、サジはお客さんなんだし。本当に久しぶりだったからさ。
そう言うなら、今度はサジが点ててよ」
「やだ。俺がやると、泡が潰れて美味しくないぜ?」
「勢いが良すぎるんだよ。もっと落ち着いてやれば、上手くいくって」
そう説き伏せられて、サジタリウスはシュウサクと場所を代わった。
茶匙で抹茶を掬い、お湯を注いで、茶筅で攪拌していく。
シャカシャカという音は、何故か心が軽くなる気がした。
「…はい、どうぞ」
「ありがとう。いただきます」
丁寧に器を回して、一口。
そのまま飲み干して、シュウサクは「美味しい」と顔を綻ばせた。
「久しぶりにしては、上出来じゃない?お互いに」
「…まぁ、こんなもんだよな」
そう、サジタリウスの笑う。
それにシュウサクは、「どう?落ち着いた?」と微笑んだ。
「…やっぱり、バレてたか。俺って、そんなにわかりやすいか?」
「いや、まぁ僕たち家族が鋭いんだろうなって自負はあるけど…さすがに、その理由まではわからないさ」