彼の地に花が咲かずとも
****
あの伯父はきっと、突然現れてすぐに帰るのだろうと、ワカサ家の三子は思っていた。
しかし、母と伯父との話し合いは平行線のようで、リゲルはなかなかアバロンへ帰ろうとしない。
一度、父も交えて3人で話をしたようだが、師範にあるまじき人見知りの父は、結局まともに意見も出せなかったらしい。
「なんでうちの親父は、我が弱いんだか…」
昼食の片付けをしつつ、長男のキリヤが呟いた。
それに長女・ユリが「兄さんが言えた義理じゃないでしょ」と言い、次男・サジタリウスが「まったくだ」と溜め息を吐く。
幸い、我の弱い父の血は、我の強い母の血で中和されたらしく、下の姉弟はどちらかと言えば母親似であった。
人見知りであっても、教える時は問題ないようで、父は今日も午前中から道場で指導に打ち込んでいる。
今は自室にいるが、午後からはまた隣町へ教えに行くらしい。
最早、この問題に関わりたくないのではないかと、三子は思わなくもない。
「またしばらくすれば、伯父さん来るでしょ。サジ、お茶の支度宜しくね」
「えっ、俺が!?」
「だって、私これから学問所に戻らないとだし、兄さんは父さんと一緒に出かけちゃうでしょ」
「そういうことだ。お前もう卒業式までやること無いだろ?」
それを言われると、末弟は言うことがない。
無事に卒業試験をクリアし(実際、落ちる生徒は滅多に居ないのだが)、卒業式まで一週間以上の休みに入ったサジタリウスは、正直暇を持て余していた。
「お茶さえ出してくれれば、後は何してても良いわよ。
もしかしたら、母さん居なければ諦めて帰るかもしれないし」
「そういや、母さんどこ行ったの?」
「ユウヤンまで新しい筆買いに行くって」
「なんでユウヤンなんだよ!?そのくらいリャンシャンで買えよ!!」
「…まぁ、早い話がお袋も面倒になったんだろうな」
兄の呟きに、サジタリウスは盛大に溜め息を吐くしかなかった。
****
結局、暇になると弓を持ち出すのは、いつものことだ。
サジタリウスは、結局愛用の弓具を持ち出して、裏庭へ出た。
今日も至って穏やかな日よりだ。
焦ることもない。とりあえず縁側に腰掛け、空を見上げる。
「(しっかし、伯父さんもよく来るよなぁ…)」
ふと思ったそれが、サジタリウスの…というより、ワカサ家の大半の思いだった。