彼の地に花が咲かずとも


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あの伯父はきっと、突然現れてすぐに帰るのだろうと、ワカサ家の三子は思っていた。

しかし、母と伯父との話し合いは平行線のようで、リゲルはなかなかアバロンへ帰ろうとしない。
一度、父も交えて3人で話をしたようだが、師範にあるまじき人見知りの父は、結局まともに意見も出せなかったらしい。

「なんでうちの親父は、我が弱いんだか…」

昼食の片付けをしつつ、長男のキリヤが呟いた。

それに長女・ユリが「兄さんが言えた義理じゃないでしょ」と言い、次男・サジタリウスが「まったくだ」と溜め息を吐く。


幸い、我の弱い父の血は、我の強い母の血で中和されたらしく、下の姉弟はどちらかと言えば母親似であった。

人見知りであっても、教える時は問題ないようで、父は今日も午前中から道場で指導に打ち込んでいる。
今は自室にいるが、午後からはまた隣町へ教えに行くらしい。

最早、この問題に関わりたくないのではないかと、三子は思わなくもない。


「またしばらくすれば、伯父さん来るでしょ。サジ、お茶の支度宜しくね」

「えっ、俺が!?」

「だって、私これから学問所に戻らないとだし、兄さんは父さんと一緒に出かけちゃうでしょ」

「そういうことだ。お前もう卒業式までやること無いだろ?」

それを言われると、末弟は言うことがない。

無事に卒業試験をクリアし(実際、落ちる生徒は滅多に居ないのだが)、卒業式まで一週間以上の休みに入ったサジタリウスは、正直暇を持て余していた。

「お茶さえ出してくれれば、後は何してても良いわよ。
もしかしたら、母さん居なければ諦めて帰るかもしれないし」

「そういや、母さんどこ行ったの?」

「ユウヤンまで新しい筆買いに行くって」

「なんでユウヤンなんだよ!?そのくらいリャンシャンで買えよ!!」

「…まぁ、早い話がお袋も面倒になったんだろうな」


兄の呟きに、サジタリウスは盛大に溜め息を吐くしかなかった。



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結局、暇になると弓を持ち出すのは、いつものことだ。

サジタリウスは、結局愛用の弓具を持ち出して、裏庭へ出た。

今日も至って穏やかな日よりだ。
焦ることもない。とりあえず縁側に腰掛け、空を見上げる。


「(しっかし、伯父さんもよく来るよなぁ…)」


ふと思ったそれが、サジタリウスの…というより、ワカサ家の大半の思いだった。
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