【カプリコーンの仕事】
「えっ、カプリコーン先輩って、ご結婚されてるんですか!?」
そんなことを言われるのは、まぁいつものことだった。
むしろ、自分が既婚者だと言って、「えっ!?」と聞き返されないことは殆どない。
年若いのは事実(先日、19歳になった)だし、一昔前ならともかく、近年男女共に10代で結婚することは稀だ。
ただでさえ僕は童顔だし、下手すると未だに女性に見えるくらい華奢だ。
あまり認めたくはないが、それと既婚であることのギャップが、余計に際だっているのは仕方ない。
だからといって…面白がって話題にされて、それが更に誇張されているのは、気分のいいものではない。
「そうなんだよ。あんな可愛い顔して、意外だろ?
あの照れ屋が顔に出すわきゃねぇが、まだ結婚してから1年経って無い新婚さんだぞ。
しかも奥さん、6歳年上の超美人」
「えぇっ、ホントですかっ!?」
「天術研のぞいてみ、いるから。
しっかし、今じゃそこそこ身長あるけど、結婚した当初はちっさかったからなぁ…。結婚してから一気に背が伸びるやつとか、初めて見たぜまったく。
やっぱ人間、やることやればホルモンの都合か成長する…いでぁっ!!」
皆まで言わすか。僕は、背後からジェミニ先輩の後頭部を、持っていた魔導全集第2巻の背表紙で殴った。
案の定、振り返った先輩は「なにすんだよ、リコ!!」と涙目になっているが、自業自得だ。
その向こうでは、最近術研に来たばかりの新人・クオーツが、困ったように笑っていた。
「この人の言うことは、話半分に聞くように。結婚してるのも、結婚してから背が伸びたのも本当だけど、大概は余計な尾鰭が付いてるから」
「は、はぁ…」
自分の親より年上の大先輩を、いきなり殴りつけるのもどうかという話だが、いつものことだ。
「イテテ…お前、なんでこんな暴力キャラに育ったんだよ。ガーネットもそうとうツンデレだが、いきなり殴りやしないぞ」
「自分のアイデンティティを守るための正当防衛です。というか、いくら顔が似てるからって、母と比べるのやめて下さい」
「いや、中身も似て…なんでもない」
最近、ようやく僕の術士離れした打撃力を理解してくれたらしいジェミニ先輩は、再度構えられた魔導全集に口を塞いだ。
「あの、出歯亀承知で口を挟みますけど…奥様、術士の方なんですか?」
おずおずと、クオーツが手をあげる。
中途半端に話してしまった以上は、説明せねばなるまい。ジェミニ先輩の口から、好き勝手言われるよりはマシだ。
「いや、ホーリーオーダー。天術研究室に、協力研究員って形で籍を置いてる、マグダレーナ=クライスト」
「マグダレーナ=クライスト・アルビドルだろ」
さり気なく訂正されて、そうかと思い直す。
本人は流石に慣れたらしいが、僕は未だに彼女の今の名前を忘れる。というか、なんだか口に出しにくい。おかしな話だが。