【ファーストコンタクト】
「いいの、俺なんかと喋って」
「構いやしないよ。アタシは自他ともに認める“変わり者”だからね。
好奇心旺盛すぎて、いつか身を滅ぼすって言われてるくらい。アタシに言わせれば、みんなが心配しすぎなんだけどさ。
…実は、帝国ってどんなとこなのか、すっごく興味あるんだ。ねぇ、教えてよ」
いつの間にか、ヒルトは身を乗り出して、ユリシーズのすぐ側まで来ていた。
自分よりいくらか年上と思われる彼女が、子どものように目を輝かせている。
教えられるようなことなど、殆どないが…ユリシーズは思いつくまま、取り止めのない話を始めた。
流通の話、経済の話、産業やら地理やら歴史やら…全くもって、面白味のない話しかできないというのに、ヒルトは頷きながら聞いていた。
「なるほどねぇ…とりあえず、面白いとこだってのはわかったよ」
「そういう話なら、俺より兄貴に聞いた方が良い。同じ話がずっと楽しく聞けるから」
「兄貴…あぁ、やっぱさっきの人、兄弟なんだ。似てるなーって思ってた」
「そうか?顔は全く似てないのに」
「そう?似てるよ、絶対。でも、兄貴さんよりキミの方が、ちょっと男前かもね」
「男とか見慣れないってのに、なにを基準に…」
「うーん…雰囲気?なんとなく?キミの方が、より女から遠いっていうか、なんていうか」
それは、兄が女々しいということか。
それについては思い当たる節があり、ユリシーズは思わず吹き出した。
「あっ、やっと笑った。ちょっとは機嫌直った?良かった~」
「別に、不貞腐れてたわけじゃないけど…気晴らしにはなった。ありがとう」
「どういたしまして。
アタシ個人としては、キミや兄貴さんの話、村の子たちに聞かせてやりたいんだけどなぁ…ジャンヌ姐さんが、ダメって言うだろうな。なかなか」
ヒルトは膝を抱えて、ここで始めて、小さくため息を吐いた。
「姐さん、ガンコだから。その気持ちもわからなくはないけど、若い子たちまで同じ思想でいる必要はないと思うんだよね」
「その点、あんたは随分と柔軟だな」
「アタシは、男にそれほど怨みとかないからね。
元から父親とかいないし。家族が壊れたりとか、そういうの無いから」
「…村には、そういう人も?」
「うん…ロックブーケのせいで、父親や旦那にエイルネップを追い出された人がいっぱい居る。
みんな、生きてくのに必死だから、幸か不幸か、普段はあんまり考えずに済んでるけどね」
ヒルトはそう言って、長いまつ毛を伏せる。
察するに、彼女には個人的な恨みがない分、他の女性たちの悲しみが、余計目に付くのだろう。
いたたまれないが、そこで気の利いた言葉のひとつもかけられないのは、やはり兄とは違うユリシーズだった。