【ファーストコンタクト】
「2人とも、そろそろ代わるよ。疲れたでしょ?」
「でも、いくらヒルトさんでも、男が居る場所を一人で見張りなんて…」
「だーいじょうぶ、アタシ強いから。ほら、それより夕餉の支度、手伝ってやってよ」
ヒルトと呼ばれた女は、そう言って2人の見張り少女を、村の中へと返した。
察するに、彼女はジャンヌに準ずる人間なのだ。心配そうな顔をしながらも、見張り番の少女たちはそれに従う。
強いというのも、ハッタリではないだろう。
軽く振舞ってはいても、彼女の動きに隙はない。
石段の、ユリシーズとは反対の隅に腰掛け、長刀を傍らに置くと、彼女は目を伏せ「ゴメンね」と呟いた。
それが自分に向けられた言葉だと気づかず、かなりの時間を置いてから、ユリシーズは「えっ?」と気の抜けた声を発する。
「あの子たちも必死なだけでね、キミたちのこと、邪険に扱いたいわけじゃないんだ。すぐ態度を改めるわけにはいかないけど…いつか、きっと謝るから。
とりあえず、アタシから、ゴメン」
「…いや、いい。謝ってくれなくても」
兄と違って人見知りの激しいユリシーズは、上手い言葉を見つけられない。
ただ黙って、空になった水筒を差し出した。
それを受け取って、2本目の竹筒を渡し、ヒルトは「やっぱ、怒ってる?」と苦笑する。
「怒ってない。むしろ、感謝してる。ここへ来て、やっと人間扱いされたから」
「…そっか。良かった。
そうだよね。男だろうが、女だろうが…アタシたち、人間だもんね。してもらって、嬉しいことは同じだよね」
そう言って、ヒルトは笑った。
何気ない言葉だが、散々な対応をされた後では、とても深い意味があるように思える。
…今このサラマットには、アバロンにおける「当たり前」が存在していないのだ。