【ファーストコンタクト】
エイルネップの男たちが、焦点の合わない目で彷徨うように生きているのは、全てロックブーケの術のせい。
「男は信用できない。村に入ると言うなら、遠方からの来訪者と言えど容赦しない」
ジャンヌからは、蛇蝎の如く嫌われた。
鋭い眼光には、傭兵人生の長いユリシーズですら、背筋が寒くなったが、それにどうこう言える立場でもないし、無理強いすることもない。
それが、この村を守る為の秩序なのだろう。
キャサリンは申し訳なさそうだったが、男性陣は自ずから身を引いた。
結局、ジャンヌとの対談にはキャサリンとマグダレーナだけが向かい、残りの男衆は村の外で待機することになった。
とはいえ、余りにも手持ち無沙汰なことから、さっそくロビンが「ジャングル探検に行ってくる」と言い出し、シーシアスとテリーもそれに乗る。
ユリシーズは、とてもそういう気にはなれず、荷物番と村入り口の警護を理由に残ったのだった。
…まぁ、探検と言えど、一応歴とした現地調査なのだが。
それにしても暑い。
モンスターが襲ってくる可能性も捨てられず、鎧を脱いでしまうわけにもいかない。
少しでも楽な姿勢でいたくて、愛用の大剣に寄りかかろうと、柄に手をかければ、入り口の見張りを務めるジャンヌの部下が、殺気を向けてきた。
正直、鬼のように厳しい傭兵隊の「姐さん」たちの方が、思いやりがあるだけずっとマシだと思えた。
「ねえ、そこのキミ」
「えっ?」
急に声をかけられて驚くが、それほどの気力もなく、ゆっくり振り向く。
水筒らしき竹筒を持った女が、村入り口の石段を降りてくるところだった。
長い海色の髪、グレーの瞳…歳は、キャサリンと同じくらいだろう。
確か、先ほどチラッと面会したジャンヌのすぐそばに居た人だ。
「これ、差し入れ。暑いから、疲れたでしょ?」
「ああ…どうも」
受け取れば、中身はただの水だった。
もっとも、こんな気候の中では、どんな酒よりこれが心地いい。
一気に煽れば、冷たい喉越しが身体全体を癒やした。