【ファーストコンタクト】
「(…退屈、だな)」
わざわざ口に出すほどでもないが、ユリシーズの心は“退屈”という言葉に占拠されていた。
ジリジリと照りつける太陽は、日差しの強さだけならメルー砂漠ほどではない。
しかし、このサラマットという土地では、気温と共に湿度も上がる。
ネットリとした空気は、大樹に絡まるあの蔓のようにまとわりつき、夕方だというのに、ユリシーズの肌はベッタリと汗に塗れていた。
温暖なロンギット他方に生まれ、冷涼なアバロン在住の彼には、それだけでも意外と応えるのだが…それ以上に、いつ終わりが来るのかわからないこの退屈の方が、精神を擦りつぶりている気がした。
時のバレンヌ皇帝・キャサリンがサラマットを訪れたのは、1203年のこと。
ユリシーズは皇帝直属部隊のメンバーではなかったが、先代マゼラン帝が行幸に若手の戦士を連れていたことに倣い、キャサリンもまた、ユリシーズに同行を求めたのだった。
しかし、実際訪れたは良いものの、この地域は街としてまともに機能していない…住民である男たちは、特に。
来訪者であるユリシーズや、兄のシーシアス、直属部隊員のテリーなどでも、軽い頭痛を覚えるのだが…キャサリンやマグダレーナは、なんともないという。
異様な空気を漂わす首都・エイルネップを離れ、ようやく「真っ当な」人間に出会えたのは、密林の奥深く…女だけが暮らしている、謎の村だった。
村のリーダーだという戦士・ジャンヌによれば、これは七英雄・ロックブーケの所業だというが…詳しい話を聞くのに、同席することは叶わなかった。