【病身のマグダレーナ】


「ねぇ、本当に大丈夫?」

「大丈夫よ。何度も言うけど。ただの風邪なんだから。
というか、早く仕事行かないと遅刻するわよ」

言って思わず咳込むと、リコが本気で心配そうに、私の背をさすった。

彼の後ろ髪を引いてるのは、間違いなく私なんだけど、たかが風邪で元気な彼を引き止めるわけにもいかない。
本当に大丈夫、と念を押したところで、彼は「できるだけ早く帰るから」と言って職場へ向かった。


…で、リコが家を出てから、一時間と経ってない今現在。
ストーブの上の薬缶が沸騰する音だけが響く室内で、私はどうしようもない心細さを感じていた。


「(…まだ9時半、かぁ)」

もっと経った気がするのに、思ったより時計の針は進んでいない。
几帳面なリコのことだから、昼休みには間違いなく一度帰って来るだろう。

でもその時間までに、まだあと2時間以上ある。
御丁寧に、枕元には剥いたリンゴと、保温瓶に入れられたお茶に、氷嚢の換えまで用意していってくれたけれど、正直それに手を伸ばす余裕もない。
止まない頭痛と、咳込みすぎて痛い喉のせいで、眠ることもままならなかった。

あぁ、寒い…室温も充分暖かいし、毛布もいつもより重ねてる筈なのに、寒気がする。
ただの風邪、と自分では思うけれど、ちゃんと診断してもらったわけでもない。

もし、実は厄介な病気だったらどうしよう…そう思うと、急に不安になった。

病気というのは、どこまで人をネガティブにするのだろう。
なんとか少しは持ち直したい…そう思えば思うほど、早くリコが帰ってこないかなと思ってしまう。

あんなに確認されて、いいから仕事へ行けと言ったばかりなのに。

結婚してから、半年経って…職場も同じ、家でも一緒の彼が近くにいないことが、なんだか急に不安になってしまった。
慣れって恐ろしい。というか、結婚してから急に人恋しくなった自分がもっと恐ろしい。

…とか言ったら、きっとロビン兄さんなんか「え~っ、マグは元から寂しがり屋じゃん」とか言うでしょうけど。

それにしても、寒い。
どうせ眠れないので、上半身を起こすと、それはそれで頭痛が酷くなった。

グルッと辺りを見回すと、彼がさっきまで座っていた椅子に、見慣れた色がかかっていた。
リコが、部屋着の上にいつも着てる、黒いカーディガン…こんなこと言うと絶対に怒るけど、こういう柔らかいフェミニンな素材が、彼にはとても良く似合う。

思わず手を伸ばして抱き寄せると、彼の匂いがした。
ギュッと抱きしめると、なんか安心する…側にいる気がして。

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