ツバメに恋した青年と、雛鳥の翼と。
「キャシー、お待たせ…あら、ドワイトさん!?」
とっくに帰ったと思われたのだろう。妹と談笑するドワイトの姿に、ファナは目を丸くした。
キャサリンはテトテトと姉に歩み寄り、「ドワイトお兄ちゃんがね、これ貸し出ししてくれたの!!」と児童書を片手に笑顔で報告する。
「そう、良かったわね…。すみません、妹の面倒まで見ていただいて」
「いえいえ。かつての愛読書を薦めただけですから」
キャサリンは、姉と違い多弁なようで、「それからね、それからね」とさっきまでのことを伝える。
「ドワイトお兄ちゃんは、ティファールってとこから来たんだって。こんど、ティファールのごはん食べにつれてってくれるって!」
「そうお約束したの?」
「うん!ねぇお兄ちゃん、いつつれてってくれるの?」
「いつでもいいよ。お姉ちゃんの都合がいい時にね」
「じゃあ、今日いきたい!!これからいく~」
天真爛漫に答える妹を、ファナは慌てて「ダメよ、急すぎるわ」と諫める。
実際はドワイトに遠慮してのことだが、本当に行くつもりでいるキャサリンは「だって、明日はお姉ちゃんおしごとおそくなるもん」と頬を膨らませる。
「あの、ファナさんさえ良ければ、僕は今からでも大丈夫ですよ」
「えっ、でも…」
「予約が必要な、堅苦しい店じゃないんで…。あの、僕なんかで良ければ、お二人にご一緒させて下さい」
ドワイト的には、精一杯のアプローチだった。
きっとフランクリンに言わせれば、「草食動物が、高いところの餌に頑張って食らいつこうとしてる程度」だろうが。
そうまで言われて、しかも妹が乗り気になってしまっている。
ファナは、小さな声で「それじゃあ、お言葉に甘えて…」と呟いた。
「わーい、おそとでごはん!お兄ちゃんといっしょ、うれしい!」
恥ずかしそうに向かい合う二人の間に、なにも知らないキャサリンの、楽しそうな笑い声が響いた。