ツバメに恋した青年と、雛鳥の翼と。
「コムルーン島、かぁ…。どうやって来たの?」
「えっとねぇ、お船にのって、それから馬車できたんだって。でもあたしはちっちゃかったから、よくおぼえてないんだ」
「そっか。お父さんやお母さんと、一緒に?」
「ううん、お姉ちゃんとふたりでだよ。お父さんやお母さんや、他のお兄ちゃんお姉ちゃんは、みんな火事で死んじゃったんだって」
本人はあっけらかんと言うが、ドワイトはなんとも言えなかった。
そう言えば、ファナとは色々な話をしたが、自身のこと、家族のことなどは何も知らない。
妹がいることも、今日初めて知ったくらいだ。
キャサリンの言う通りなら、彼女は若くして家族を亡くし、幼い妹を連れてアバロンまでやってきたことになる。
そんな空気を察してか、彼女はクイクイとドワイトの袖を引っ張った。
「でもね、あたしさびしくないよ。お姉ちゃんがいるし、お友だちもたくさんいるもん。
だから、お父さんやお母さんがいなくても、だいじょうぶだよ」
「そっか…。そうだね、お姉ちゃんは優しいよね」
「うん!ときどき、すっごくおこるけどね。
ドワイトお兄ちゃんのおうちは、どんなとこ?」
「ええと、そうだね…両親と、お兄ちゃんが2人いるよ。みんな、ティファールでお仕事をしてるんだ。
ティファールは、夏は涼しいけど冬はとっても寒いんだ。だから、ストーブを造ったり、それを別の街に売りに行ったりね」
厳密に言えば、それはユーフラジー家の手広い商売の一部でしかないが、他に上手く説明できそうにない。
キャサリンは、「そっか、さむいんだぁ…」と納得したようだった。
「じゃあ、冬はたいへんだね。コートとかいっぱい着なきゃだね」
「外だと、そうだね。でも、向こうの人は、寒いのに慣れてるから。
あったかいニンニクのスープとかで、身体もあったまるから大丈夫だよ」
「それ、おいしそう!!食べてみたい」
「アバロンにも、ルドン料理のお店があるから、そこで出してくれるよ。連れて行ってあげようか?」
「うん、いく!!あっ、お姉ちゃんもいっしょにつれてってくれる?」
「もちろん。…あ、うん。お姉ちゃんがいいよって言ったらね」
…元はと言えば、姉であるファナを食事に誘おうとしていたところだった。
先に妹と約束が成立したのは、なんの駆け引きも打算もないことだが、姉を将とすれば、間違いなく妹は馬だった。