ツバメに恋した青年と、雛鳥の翼と。
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「えっ、お、お食事ですか?」
「は、はい…その…お時間があったら、で良いんですけど、その…」
図書館の一角が、これほどまでに緊張した瞬間があるだろうか。
平日の閉館間際。それも児童図書室とあれば、人気は他にまるでない。
ドワイトにしても、ファナに会いたいがために、わざわざここまで来たことは明確だった。
「えぇっと、その…。これから、ですか?」
「いえ、ホントに!!ホントにお時間がある時で良いんです!!
えっと…そもそも、ご迷惑でしょうか?」
「いえいえ!そんなことはないんです。お誘いして下さったことは、嬉しいんです。
でも、その…時間がない、というか…。家を離れられないというか…」
お互いにしどろもどろで、話が進まない。
なんとも気まずい空気のまま、たっぷり15秒ほど費やした頃。
カランカラン
「ただいまぁ」
児童図書室のドアが空く音と、元気の良い少女の声。
振り返れば、7歳ほどの少女が、ドアを押し開いて入ってくるところだった。
持っているカバンからして、幼年学校の帰りだろう。
しかし、何故こんな時間に…しかも、図書館へ来て「ただいま」とは、あまりにも風変わりだ。
そんなことをドワイトが考えている横を、ファナはスッと通り過ぎた。
「キャシー、お帰りなさい。ごめんね、お姉ちゃんまだお仕事が残ってるから、ここで良い子にして待っててね」
「うん、わかったぁ」
言い聞かされた通り、少女は机に荷物を置くと、本棚を物色し始める。
「あの、ドワイトさんすみません。まだ、書庫の片づけが少し残っていて…」
「そうですか。手伝いましょうか?」
「いえ、本当に少しですから。では、また…」
そう言って、彼女は軽く会釈をして引っ込んでいく。
うやむやに話を打ち切られたわけだが、ドワイトの中にそんな悲壮感はなく、彼女の仕事が終わるまで、ここで待ち続けるつもりでいた。
そんな折り、視界の隅で、少女が高い棚の上に必死に手をのばしている姿が止まる。
ごく自然に、ドワイトは少女の視界の先を確認し、それを手にとった。
「はい、どうぞ」
知らない人から手渡されたことに、少女は一瞬きょとんとしたが、すぐに「ありがとう」と花が咲いたように笑う。
その笑顔は、ファナに少し似ていた。