ツバメに恋した青年と、雛鳥の翼と。
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ドワイトとフランクリンは、士官学校における同期である。
士官学校には、幼年学校の高等部を経て2年生へ編入する者と、中等部終了後にそのまま1年生として入学するコースがある。
幼年学校高等部は3年制なので、同期の中には単純に2歳程度の年齢差が生じる。
ドワイト・フランクリン共に高等部を経由しているため、同期の中では年長組であった。
実際のところ、同期生でありその中に格差はないが、俗に「編入組」と呼ばれる彼らの方が、出世が早いと言われるのもまた事実である。
高等部経由で士官学校へ編入する人間は、1学年の内1/5程なので、彼らが「エリート」と称されるのも誇張ではない。
特に、今現在の皇帝であるハリー帝が軽装歩兵団出身であることから、ここ数年軽歩隊員は人気職であり、彼らの入学した年も例に漏れず、倍率が例年に比べ高かった。
士官学校卒業生は、大まかに《軽装歩兵隊》《重装歩兵隊》《猟兵隊》の前線3部隊、《医療班》《情報解析班》などの後衛支援部隊に配属される。
優秀な生徒が多いと評判高い彼らの学年は、卒業から2年で、既に城内待機員に任命された戦士もいるほどだ。
生憎、2人の所属先である軽歩隊は、例によって人員が飽和状態であるため、優秀な成績で卒業した彼らであっても、平凡な仕事しか回ってこなかったが。
「…で、あんたらと違って忙しいこのあたしを呼び出しといて、一体なんの用よ?」
フランクリンの目の前に座るのは、その城内待機員に抜擢されたひとりである、猟兵隊のイザベラである。
アバロン下町の居酒屋の一角で、長い足を優雅に組んでみせるが、テーブルの上にあるのはお洒落なカクテルではなく、安い麦酒のジョッキであった。
この気取らない性格もあって、イザベラは同期の誰とでも上手く付き合うタイプであり、フランクリンも学生時代から何かと情報交換をし合う仲だ。
「悪ぃ悪ぃ。ちょっと聞きたいことがあってさ。
市民図書館の司書の、ファナさん。知ってるだろ?」
「そりゃ、知ってるも何も…あたしの親友だけど、それがどうかしたの?」
そう首を傾げる彼女に、フランクリンは「噂は本当だったか」と心の中で呟いた。
派手好みで酒好きなイザベラと、見るからに室内派の彼女が、どうにも結び付かない。
その顔色を読んだらしく、イザベラは「なによ、文句ある?」と眉根を寄せた。
「いや、ないけどさ。
聞いてくれ。ドワイトのやつが…」
「あぁ、ハイハイ。ドワイトね。あれはどう見てもあの子に惚れてるわね」
「…知ってたのはともかく、その程度の反応かよ」
「だって、ファナは全然気づいてないから、話題にもならないし、ドワイトは飲み会とか絶対出てこないから、聞き出しようがないんじゃない。
あたしとしては、傍観するまでよ」
そこまで言って、イザベラはジョッキの中身をグイッと飲み干した。
そう言われると、ドワイトのことでこんなにヤキモキしている自分が、なんだか馬鹿らしく思えてくるフランクリンである。