ツバメに恋した青年と、雛鳥の翼と。
***【11 years after】***
「あっ、これは…」
古い荷物を整理していたら、懐かしいノートが出てきた。
中身は随分と拙い字だけど、表紙にはキッチリ、あたしの名前が書いてある。
…幼年学校に入った時に買ってもらったノートは、全部お姉ちゃんが名前を書いてくれたんだっけ。
「ん?なんだ、それ?」
隣で片付けを手伝ってくれてたシアが、何事かと覗き込んでくる。
「幼年学校時代のノート。しかも、初等科の1年の時の」
「そりゃまた、随分と古いもんだな…。ホント、物持ち良すぎだぜ、お前」
半ば呆れたように、そんなことを言われるけど、捨てられない人間なんだから仕方ない。
むしろ、こんなものまで捨てずにおいてくれたのは、姉の死後、あたしを引き取ってくれたベル姉さんなんだから、感謝しないと。
「懐かしいなぁ…。お姉ちゃんの仕事が終わるまで、色々落書きして時間潰してたの。
…あっ」
「ん?今度はなんだ?」
シアが覗き込んでくるけど、あたしは咄嗟にそれを隠してしまった。
案の定、「なんだよ、見せられないような落書きか?」と不機嫌そうな顔になる。
というか、なんで隠したんだろう。別になにも疚しくないのに。
「別に、大したことじゃないんだけど…懐かしいなぁって」
広げて見せると、シアは小首を傾げた。
子どもにもわかるように、大きく丁寧な字で刻まれた、「ドワイト・マーベリック=ユーフラジー」という名前。
これを書いてもらった時のことは、今でもよく覚えている。