ツバメに恋した青年と、雛鳥の翼と。
「あっ、家はここなんです」
しばらく後、ファナはそう言って足を止めた。
こぢんまりとしたアパートの、一室。ファナは鍵を開けると、「わざわざ送っていただいて、ありがとうございました」と頭を下げ、妹を抱き上げた。
「いえ、今日は本当に楽しかったです。もし良かったら、また3人で食事でも」
「えぇ、いずれ…。では、おやすみなさい」
「おやすみなさい。…あっ、あのファナさん!」
「あっ、はい!?」
「あっ、いえあの…すみません、なんでもないです。おやすみなさい」
「えぇ…おやすみなさい、お気をつけて」
そう言って、別れる。
パタンとドアが閉められた音で、ドワイトは全身から力が抜けるのを感じた。
どうやら、ずっと緊張していたらしい。
「(…我ながら、駄目な男だな。僕は)」
緩んだ身体を立て直して、家路に着く。
会話の内容は隅々まで覚えているが、そういえば夕食の味をまるで思い出せない。
そして、さっき言いかけた言葉がなんだったのかも。
「(彼女と言葉が交わせるだけで、幸せだった。でも、ファナさんの幸せは…僕じゃない。それだけのことだ)」
小さな妹の幸せを、彼女はただただ願っている。
その強さを、ドワイトはどこか羨ましいと思いつつも、どうしようもない違和感が拭いきれなかった。
「(言っても、良いんだろうか…。幸せな2人の間に、一緒にいたいなんて。そんな我が儘を。
所詮、恋愛なんてエゴだってことは分かってる。でも…)」
…どう考えても、ただの堂々巡りになりそうだった。
きっとフランクリン辺りには、「お前、難しい本の読み過ぎだ。もっと気楽に考えろ」などと言われるだろう。
「(それでも僕は…やっぱり、彼女のことが好きなんだ、な)」
ふと足を止めて空を見上げれば、笑いたくなるほど綺麗な夜空が広がっていた。
また明日、フランクリンにでも話を聞いてもらおう…ドワイトは、そう思い直して、誰が待つわけでもない家へと急いだ。