ツバメに恋した青年と、雛鳥の翼と。
「私たちの生家は、島で林業をしていたんです。7人きょうだいで、私が一番上で、キャシーが末っ子で…。間に、弟が3人と、妹が2人いました。両親含めて9人の、どこにでもあるような普通の家です。
でも、4年前、森林火災があって…。町からは離れていたんで、被害は少なかったんですけど…家は焼け落ちてしまいました。
私はたまたま、キャシーを連れて隣町の叔母の家へ行っていたものですから。帰りが遅くなって、家路を急いでいたら…森が、燃えていたんです。
焼け跡から、私たち以外の家族の遺体が見つかって…たまたま、叔母に引き留められて、帰りが遅くなったから、難を逃れたと言いますか…私とこの子だけは、生き残りました」
「そう、ですか…。すみません、辛いことを思い出させて」
「いえ、良いんです。それから、アバロンに就職先を探して渡ってきて…図書館で採用してもらって。
こんな話、職場の人以外では、親友のベルにしかしたことなかったんですけど…。不思議ですね、なんだかドワイトさんなら、なんでも話せてしまえそうです。
キャシーが懐く気持ち、わかる気がします」
そう、ファナは笑った。
妹のように、大輪の花が咲くような大きな笑みではなかったが、まるで風に揺れる小花のような、可憐な笑み…ドワイトは思わず見とれて、足を止めた。
「あの、なにか…?」
「あっ、いえ、なんでも…」
そこで一歩踏み込めたら、ドワイトではない。
彼の背中でムニャムニャと寝言を言う妹に、ファナは「もう、安心しきってるわ」と笑いかけた。
「私には、この子が全てなんです。
親も、他の弟妹もみんな居なくなってしまって…この子だけが、私の側に残ってくれた。この子が元気でいてくれることが、私の生き甲斐…私の幸せなんです」
「ファナさんは、今幸せ…なんですね」
「えぇ…この子が笑っていてくれることが、一番幸せです」
ここまで、誰かの為に生きられる人間が、どのくらいいるだろう。
家族を失った悲しみを、忘れることはできないだろう…それでも、彼女は自分を生かす為に、妹に全てを傾けている。
その生き様を否定することなど、できようもないが…ドワイトは、どこかなんとも言えない違和感を感じた。