ツバメに恋した青年と、雛鳥の翼と。
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「すみません、すっかりご馳走になってしまって…」
「いえいえ。気に入ってもらえて、嬉しいです」
食堂からの帰り道。
さほど遅くはないが、楽しい時間で喋り疲れたのか、キャサリンはドワイトの背中で静かな寝息を立てていた。
それを見て、ファナは「よほど嬉しかったのね」と微笑む。
「ごめんなさい、重いでしょう?」
「いえ、全然。僕は末っ子で、兄しかいないんで…妹って、少し憧れてたんです。
とても賢くて、可愛くて…キャシーちゃんが妹だったらな、なんて。そう思うくらい…」
言いかけて、ハッとなる。
彼女を妹と呼ぶ可能性が、有り得ることに。
「あの、いえその…深い意味はなくって!!あっ、全くじゃないけど、僕は、その…」
「えっと、いえ…あの、ありがとうございます。妹のこと、可愛がっていただいて」
ファナは、さり気なく話の論点をずらした。
本を読む人間は、言葉を知っているはずなのに、まるで上手くまとまらない。
ドワイトはそれを歯がゆく思うが、彼女は優しく微笑んだ。
「この子も、嬉しいんだと思います。今は、私しか家族が居ないから…」
「ええと…コムルーン島から、引っ越してきたって」
「妹から聞きました?そうなんです。もう、4年ほど経つので、この子はなにも覚えてないでしょうけど…」
その先を言いかけて、ファナは「すみません、私の話ばかり」と口を噤んだ。
「あの…良かったら、聞かせてもらえませんか?」
「えっ?」
「いや、あの…差し出がましいんですけど、良かったら。お二人のこと、もっと知りたいんです」
「そう、ですか…。本当に、大した話ではないんですけど」
そう前置きして、ファナは大人しい口調で語り始めた。