ツバメに恋した青年と、雛鳥の翼と。


ドワイト・マーベリック=ユーフラジーという男は、一言で言うなら変わった人間だった。

世間からしてみれば変わっていただけで、本人は至って真剣ではあったし、なにしろ能力的には申し分ない。

士官学校卒業時の席次は3位。
座学の成績は問答無用のトップであったし、実技の成績もなかなかのものだった。

家柄にしても、ユーフラジー家と言えば知らない人間の居ない豪商一族である。
博学な人間も多く、世界を股に掛け手広く商売をしていることから知識も豊富で、役人として取り立てられたら人も多い。

そんな家に生まれつつも、商売でも政治でもなく軍人への道を志して、生まれ故郷のティファールからアバロンへとやってきた辺り、やはり彼は変わり者なのだろう。


友達はそれなりに居るが、彼らのように集まって騒ぐこともない。
訓練の厳しい士官学校の生徒と言えば、終業後にはこぞって街へ繰り出し、酒場の一角でワイワイ騒いでいるのが、アバロンでは昔からよく見られる光景だ。
学生寮にしても、休日前は夜中まで酒盛りが続くものだが、そもそも彼は寮生ではなかった。

曰く、「騒がしくて落ち着かない」そうで、わざわざ市内にアパートを借りて下宿していたのである。(この辺り、やはり実家が金持ちだと違う。)

そんなドワイトが、周囲と異なっていた一番の所以は、彼が「周囲が呆れるほどの」読書家だったからに外ならない。

その読書量は、帝大の教授をも上回ると噂された。
(ドワイト本人曰く、「帝大の先生は、そんなに本ばっか読んでいられるほど暇じゃないだろう」とのことだが。)

読んでいる物も、流行りの恋愛小説から、古典文学に歴史書、研究書とまるで取り留めもない。

「面白いから」と言って百科事典を捲っていた時には、周囲の誰もが呆れかえった。


…そんな彼が、人生唯一の恋に落ちた。

もはや「本が恋人」と言っても過言ではなかった彼が、その全てを捧げて惚れ込んだその人は、後に「皇帝の姉君」として名を残す、当時は図書館司書として働く普通の娘であった。


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