宮廷魔術士物語-1182-
「言うなれば、新入りだけど新人ではないってことよ。
とはいえ、術研どころかアバロンにも初めて来たわけだから、当分はフォローが必要でしょ?
そんなわけだからキグナス。術研の通例に従って、最も新入りに近い貴方を、教育係に任命します」
術士長は、相変わらず足をプラプラさせながら、またもビシッと指指した。
新入りに近い…5年も経ってから、そんなことを言われるとは思わなかった。
「なによその顔。まさか、断るつもりじゃないでしょうね?」
「いえ、そういうわけじゃないですけど…。
正直、何をしたら良いのやら、僕にはわかりません」
僕の教育係は、前述のジェミニ先輩だが…そのジェミニ先輩の教育係がハクヤク先輩だったので、むしろ2人まとめてハクヤク先輩が面倒をみていてくれたようなものだ。
「あんた、ジェミニから何をならったの?」
「お酒の美味しいお店、お酒の美味しい銘柄と、綺麗な店員さんがいるお店と、煙草と…あとは、賭博ですかね。
最初の2つ以外は、断固拒否しましたが」
「…ジェミニのすぐ下が、あんたで良かったわ。ぐれずに育ってくれて」
「正直、自分でもそう思います」
反面教師って、時には必要だと思う。
決してジェミニ先輩のことが嫌いなわけではないし、それなりに尊敬してはいるのだが。
「ま、さっきも言った通り、術法の面では新人じゃないんだから、難しいことはないわよ。
術研内部の構造とか、寮のこととか、近所のお店案内とか、そういう生活に必要なことだけ教えてあげて。
あっ、可愛い女の子だからって、いきなり口説きにかかっちゃダメよ?」
「…僕にそんな真似ができると思いますか?」
「冗談よ。キグナスに限ってそれはないわよね。
でも真面目な話、ホーリーオーダーって男女別の修行で、彼女も男子禁制の環境に居たわけだから、正直男の子に免疫無いと思うわ。
ジェミニ辺りがちょっかい出さないように、見張っててね」
…いくらジェミニ先輩が不良術士でも、さすがにそこまで節操なしじゃないだろう。多分。
そんなことを思っているうちに、この部屋のドアがノックされた。