宮廷魔術士物語-1182-
「ようするに、この術研に入りたいなんていう、僕以来存在しなかった変わり者が、現れたということですね」
「…まぁ、平たく言ってしまえばそういうことね。
ちぇっ、もっと反響あるかと思ったのに。つまんないの」
確かに、それはニュースだ。
だがしかし、休んでいる部下をわざわざ呼び出して聞かせるような話とは、正直思えない。
術士長は「ま、言ってしまえばそれだけなんだけどさ」と机に腰掛け、脚を組んだ。
「術士見習いですよね?また、カノープス所長のスカウトですか?」
「ん~、実はそれがね。今回はちと特殊なケースなのよ。
本来なら、キグナスみたいに見習いから入って、術士長の裁量で術士任命って形になるんだけど…もう任命済みってか、今日からもう正式に宮廷魔術士として所属することになってるんだわ。これが」
「…何故です?」
いくら、国軍内部で最もいいかげんな術士部隊でも、即日採用はさすがにまずい。
よっぽどの前歴があるならともかく。
僕の思考を読んだのか、「既に、ちゃんと術法訓練を受けてる人なのよ」と術士長は言った。
「順を追って説明するわ。
まず、あたしが今回カンバーランドへ行った理由からね」
「えっと…ホーリーオーダー部隊との、術法研究会議の為、ですよね?」
大仰な名前ではあるが、単に我が術法研究所と、カンバーランドにあるホーリーオーダー術士部隊との間で行われる、情報交換会のことだ。
年に2回開催され、春はカンバーランドで、秋はアバロンで行われる為、それぞれの代表がオレオン海を行き来することになる。
で、今回はオニキス術士長他数名の術士がカンバーランドへ赴き、昨日帰ってきたところ。
…ということは。
「キグナス鋭いから、おおよそ検討はついたんじゃない?」
「えぇ、まぁ…。ようするに、新人さんはカンバーランドのホーリーオーダー部隊出身ということですね」
「そゆこと。
向こうの長から、ホーリーオーダーの修行をしてる子の中に、特に優秀な子がいて、本人が宮廷魔術士になることを希望してるっていう話を聞いてね。
その場で会って、適性も見させてもらったけど、明らかにホーリーオーダーより術士向きだわ。
既に何年も修行してるだけあって、かなりの実力者だし、その場で術研に迎え入れて、一緒に帰って来たのよ」
なるほど。
…そういえば、術士長にはそれだけの権限があったんだった。