宮廷魔術士物語-1182-
宮廷魔術士として採用される年齢は、それこそ人によるのだが、僕のように幼年学校卒業と同時というのはかなり珍しい。
というか、幼年学校の生徒が術研に所属していた時点で、なかなかレアなケースだった。
「キグナスは人一倍努力したから」
とよく言われるが、僕は特別努力していたつもりはない。
単純に、一つのことを始めると、それに没頭してしまう質で、良く言えば集中力がある。
悪く言えば、視野が狭いだけだ。
ただ、認めてもらえたことは嬉しかった。
これからも術研で活動して良いという許可であり、既に術法の道で生きていこうと決めていた僕にとっては最高の栄誉だ。
余談だが、僕がローブを授かった半年後に、タウラス先生は術士を引退された。
側近として、ずっと一緒に戦ってこられたアガタ陛下が、退位を表明されたことによるらしい。
偶然ではあるが、僕はあのタウラス先生自ら任命して下さった、最後の宮廷魔術士になった。
とにかく、これからは正式に術士として頑張っていこうと、僕は決意を新たにした。
…問題は、僕には術を研究することはでき、それなりに使役できても、実際に現場には立てないという事実なのだが。
それはともかく。
幸い、僕が現場にかり出されるような大きな戦もなく、我が術研からはハクヤク先輩が代表で直属部隊に入った他は、特に大きな出来事もなかった。
新しく、当時副術士長であったオニキス先輩が術士長となり、術研所長はカノープス先生が引き継いだ。
(因みに、術士長と術研所長は、同じ人物が兼ねる事も多いけど、原則としては別々の役職であり、違う人がやるものだと、僕はこの時初めて知った。)
それからしばらく、術研には軍師は入ってきても、術士見習いは入ってこなかった。
カノープス所長曰わく、「ピンと来る若者が居ない」状態で、自ら志願してくる人間も居ないのだから、仕方ない。
幸い、現場で術士が必要になる機会はそうそう無く、研究者の数は足りていたので、焦って新人を入れる必要もなかった。
つまり、僕はいつまで経っても最年少。
ただでさえ小柄で、童顔なことから幼く見える僕は、18歳を過ぎても子ども扱いされていた。
ベテランのアイリスさんなんかは、「みんな、キグナスのことが可愛くてしょうがないのよ」なんて言うけど、僕が術研で最年少であることは変わらない。