宮廷魔術士物語-1182-
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結局この日は、術研のみんなでよく行くお店で、2人で夕飯を食べた。
そんなに高級なものではなくても、ガーネットは平然とグラスワインを何杯も注文しては、全て飲み干していた。
下戸な僕は1杯しか付き合えず、彼女の酒豪っぷりに驚かされただけだけど。
お会計のほどはそれほどでもなく、それ程財布に響いたわけでもないし、色々話もできたから楽しかった。
…と、こんな話を引っ張り出したのは、この時から数年後、彼女と正式に付き合い始めて、ジェミニ先輩に根掘り葉掘り聞き出されたからだ。
「お前ら、初デートがいつものイタ飯屋かよ!?」
「いや、いつものって言われましても…。
だって、奢るって言っておきながら、知らないお店に連れて行って、不味かったら顰蹙じゃないですか」
「そりゃそうだけどよ。初デートってのは、オンリーワンだぜ?1回しかないんだぜ?
それをなんでまた、職場のメンツでしょっちゅう行くような、ありきたりな店にするかなぁ…」
ジェミニ先輩はそう呆れるけど、そんなこと言われたって、今更どうしようもない。
「だって、僕はただ先輩として奢るって言っただけで、デートなんて意識全くなかったですもん。
それに、あの日先輩に枕を破かれたせいで、新しいのを買う必要があったんですよ。
あのお店なら、寝具屋さんも近いから寄りやすかったというか…」
「…オレのせいかい」
「いや、誰のせいでもないです。というか、別に僕はあのイタ飯屋さんになんの後悔も無いんですが」
ガーネットもあのお店はお気に入りで、最近もよくお邪魔してる。
まぁ、術研…特に術士長を含む火術研の皆さんは、寮の食堂が閉まってる日は必ずと言って良いほど、食べに行ってるみたいだけど。
「とりあえず、こんなところで良いですか?
そもそも、あんまり語るようなことも無いんですけど…」
「何言ってんだよ。まだ初デートの話しか聞いてないだろ?
告白はどっちからとか、初キスのシチュエーションとか、結婚式の予定とか…」
「ありませんよ、そんなの!というか、もう勘弁して下さい…」
とりあえず、術研は今日も平和です。
…多分。
〈FIN〉