宮廷魔術士物語-1182-


「ところでロビン、今日は1人なのかい?おばあちゃんは一緒じゃないの?」

「そうそう、そうだった!
ばあちゃんに頼まれて、夕飯の買い出しに来たところだった。
さっさと買って帰らないと、ばあちゃん怒るだろうなぁ…」

だったら、僕に跳び蹴りなんかしてる場合じゃないだろうに…ロビンは、フッと身体の向きを変えると、「それじゃ、またね!!」と駆けて行った。

「おじいちゃんとおばあちゃんに宜しくね」とかけた僕の声は、果たして届いていたのか。
彼は、夕暮れの街中を軽快に走っていき、やがて見えなくなった。


「元気の良い子ね」

その姿を見送ったところで、ガーネットが言った。

「貴方の弟…じゃないわよね。親戚の子?」

「いや、なんというか…一言で言うなら、知り合いの息子さん。
本人は、シティシーフギルドに所属してるんだ」

本人が「強くなりたい」って、組織入りすることを選んだらしいけど…やっぱり、あのフットワークの軽さは、シティシーフに元々向いていたようだ。

「シティシーフ…噂の皇帝直属の密偵集団ね。本当に存在していたのね…」

カンバーランド出身のガーネットにとっては、盗賊が公的組織として存在していることが不思議なようだが、世間が思うほど変わったギルドではない。

「ロビン含め、僕も何人か知り合いが居るけど…みんな良い人たちだよ。皇帝陛下に仕えるという意味では、僕らと同じだしね」

「それもそうね。
本当に、アバロンは飽きることの無さそうな街だわ」

ガーネットが、盗賊ってことに偏見を持つような人じゃなくて良かった。

むしろ、カンバーランドのホーリーオーダー部隊出身というだけで、勝手に気位の高いお嬢様と勘違いしていた僕の思い込みが、ただの妄想であってくれて良かったと思う。

…いや、実際にプライドは高いのかもしれないけど。

とりあえず、気を取り直して。

「夕飯、何食べたい?良かったら、奢るよ」

「えっ、そんなの悪いわ。これでも、向こうでは正式なホーリーオーダーだったんだもの。それなりの持ち合わせはあるわよ」

「いや、そうじゃなくてさ。僕も術研に入ったばかりの頃、よくジェミニ先輩に奢ってもらったから、そのお返しというか…」

これで、ジェミニ先輩が僕にお返しさせてくれるような性格ならともかく、「いいからお前は、次に後輩が入ったらそいつに奢ってやれ」の一点張りだった。

「そんなわけだからさ。せっかくだから、ちょっと先輩風吹かせてみたいんだ」

「…なら、遠慮なく奢ってもらおうかしら。ただ、私は本当に遠慮なんかしないわよ?大丈夫?」

「…多分」

よほど、僕は苦笑していたのか。
ガーネットは、「先輩なら、そこは自信有り気に『任せろ』って言うところじゃないの?」と、声を上げて笑った。

つられて僕も笑ったら、なんだか嬉しくなった。

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