宮廷魔術士物語-1182-
「さっき言ったでしょう?お国柄の問題だって。
私自身は、それで劣等感を感じたこともないし、その枠の中に収まってやろうなんて考えたこともない。
そう素直に訴えたら、見かねたモニカ様が術士長さんに掛け合って下さったのよ。
ここで潰れては勿体ないってね」
モニカ様…会ったことはないけど、名前くらいは知っている。
ハリー陛下の直属部隊員で、はとこであるジャックさん…すなわち、次期ネラック城主・ジェイコブさんのお母さんで、現在ホーリーオーダー術士部隊を統括してる人だ。
ご本人はアガタ陛下の後輩で、それほど名のある家柄出身でもないらしいし、何しろ息子のジャックさんは、ノーマッドの女性と結婚している。
おそらく、階級や地位にこだわらない人なのだろう。
ガーネットの口振りからしても、モニカ様には信頼を置いてるのがわかる。
「良い人がトップで、良かったね」
僕がそう言うと、彼女は「それだけは、あの組織の誇れる美点だと思うわ」と小さく笑った。
「ごめんなさい、こんな愚痴を聞かせてしまって」
「ううん、気にしないで。こちらが聞き出したことだし。
…でも、もうひとつ訊いて良いかな?」
「なに?」
「いや、大したことじゃないんだけど…。
そういう組織というか、内部の慣例とかがわかってたのに、どうしてホーリーオーダーの学校に入ったの?」
…我ながら、本当に差し出がましいなとは思ったけど、気になったんだから仕方ない。
すると彼女は、「なんだ、そんなこと」と拍子抜けしたようだった。
「簡単な話よ。学費を全額免除してくれる奨学金制度が、この学校しかなかったの。
私みたいな田舎の貧乏学生は、まともに勉強するには他に道がなくてね」
「なるほど…ガーネットは勉強熱心だね」
「別に、やるならしっかりやりたいだけよ。
あまりに田舎で、他にやることがなかったとも言うわ」
その言い分に、なんだか自分と近いものを感じて、僕は思わず苦笑してしまった。
案の定、「なにか、おかしなこと言ったかしら?」と、不思議そうに言われる。
「ごめん、何でもない。
でも、そうやって君にばっかり話をさせて、申し訳ない気もするな」
「気にしないで。だって、私は貴方のこと、船の中で術士長さんからたくさん聞かされたもの」
「なるほど、じゃあ特に言うことも…って、えぇっ!?」
…なんだか、嫌な予感しかしない。