宮廷魔術士物語-1182-
「つまり、その学校からして、良いとこのお嬢様ばっかり。
私みたいな田舎の下級階層の娘は、端からお門違いってことよ」
「なるほど。…でも、いくら階級社会でも、国軍である以上、ある程度は実力主義な部分もあるんじゃないの?」
窓枠を拭きながらの、僕の何気ない一言に、ガーネットは「その実力が通用しなかったんだもの」と、溜め息を吐いた。
僕としたことが、またなにかまずいことを言ったのか…ヒヤリとする僕の心を読んだのか、彼女は「勘違いしないで。ただの相性の問題だから」と肩を竦めた。
「ホーリーオーダーの基本術は、何だか知ってるでしょう?」
「えっと、天術と水術だっけ?」
「そう。でも私は、天術はともかく水術の才能が無かった。というより、火術に特化し過ぎていたのよ。
男を立てるホーリーオーダーにおいては、回復や補助の術法が重用され、攻撃に特化した火術は敬遠される。恐ろしい野蛮な術ってね」
…それを言われると、僕たち術士には立場がない。
術法には、個人ごとに相性ってものがあって、火術に向く人は水術に向かず、風術に向く人は土術に向かない。
逆もまた然りだ。
そして、ガーネットは火術に向いていたから、水術は思うように伸びなかったのだろう。
「でも、ホーリーオーダー出身のアガタ陛下は、確か火術も得意だったって、タウラス先生が言ってたような…」
「あの方くらいになれば別よ。でもそのアガタ陛下も、本国にいらした間は色々言われていたらしいわ。
あの方の前例があるから、今では火術使いもしつこくは言われない。私の場合は、単純に出る杭が打たれただけね」
…それは酷い。
個人的に先帝陛下と仲が良かったというタウラス先生は、アガタ陛下について「あいつも色々型破りだから、オレも苦労させられたよ」とかなんとか愚痴っていたけれど…術法の適性はあくまで個性であって、それによって優劣は決まらないはずだ。
火術使いも水術使いも、皆同じように必要とされる。
それが、僕たち宮廷魔術士の世界なのに…。
僕があまりに呆然としていたからか、ガーネットは「それほど特別なこととは思わないけど?」と怪訝そうな顔をした。