宮廷魔術士物語-1182-
一方カンバーランドは、つい100年ほど前まで完全な王制であり、紛争の後バレンヌ帝国自治領となっても、その地における皇帝代行は元の王家において世襲されている。
帝国の一部に組み込まれていても、その管理を行っているのは旧王家とその周辺であり、貴族という家柄は現在も現役と言えるだろう。
しかし、民衆の思想には、かなりバレンヌ本国の感覚が流れ込んでおり、世襲制の代行システムに疑問を抱く声も上がっているようだ。
「ホーリーオーダーは、旧王国騎士団が母体。法で定められていなくても、その長は旧王家に連なる人間が就くのが当たり前だわ。
当然、その下も王家に近い人間が並んでいく。
そもそも、今のようにカンバーランド預かりの帝国軍という括りにならなければ、家を継がない良家の子息や、娘の嫁入り修行代わりに放り込まれる場所だったんだから」
「えっ、そうなの!?」
それは知らなかった。
僕が思わず素っ頓狂な声を上げると、ガーネットは逆に不思議そうに「あら、知らなかったの?」と問う。
「いや、僕の感覚だと、ホーリーオーダーってカンバーランド駐在の国軍ってイメージだったから…」
「表向きはね。そう思ってるバレンヌ人がいるなら、上手く取り繕えてるってことだわ。
もちろん、昔よりは減ったけれど、フォーファーの修学院は未だに貴族の娘が女子校代わりに来ることだってあるもの」
彼女の説明によると、ホーリーオーダーになるには、女の子はまずフォーファーの女子修学院に入る。
そこは、ホーリーオーダー育成の為の学校ではあるけど、最初の数年は一般教養だけで、実際に術法などを学ぶのは最後の1年だけ。
そして、卒業生の半分は、ホーリーオーダーにならずに実家へ帰ってしまうという。
「それって、最初からホーリーオーダーになるつもりがない人たちってこと?」
「そういうこと。
フォーファーの学校は、ソフィア様が建てた由緒正しい修学院だから、そこを卒業してるとなれば、嫁入りの条件としてはかなり良くなるもの」
その後働くならともかく、結婚するのに学歴が必要って…アバロン育ちの僕にはよくわからない理屈だった。