宮廷魔術士物語-1182-
僕の名前はキグナス。
年齢は20歳。
職業は、宮廷魔術士。
仕事として、主に術研で研究者をしている。
とはいえ、この仕事に就いたのは成り行きのようなものだ。
アバロンの下町で生まれて、国立幼年学校へ入り、そのまま高等科へ進んだところ、先生に「君には才能がある」と突然言われ、魔術クラスを受講した。
学問としての魔術は確かに面白かったが、理論と実戦はまた違う。
だから、まさか魔術士になるようなことはないだろう…と、思っていたのに。
「いや、君には研究者としてはもちろん、術士として現場で活躍できるだけの素質がある!!
その才能を潰したりしては、国の損害だ!!」
…と、高等科で魔術を教えていたカノープス先生に言われて、見学だけでもと請われ足を運んだ術研に、気が付いたら籍を置かれていた。
後に聞いた話だが、これはカノープス先生がよくやる、新人勧誘の手段だったらしい。
僕はそれに、まんまと(言い方は悪いけど)ハメられたわけだ。
特に何がしたかった訳でもなく、何ら人生の目的があったわけでもない僕は、それに憤るわけでもなく、自然と馴染んでしまった。
術研には、僕のような見習いの他に、もちろん正式な宮廷魔術士、フリーで術研究をしているフリーメイジ、帝大の学生や卒業生…軍師と呼ばれる人たちがいて、世代や出身を超えて深い交流があった。
僕の先輩たちは、みんな親切で…いや、確かにハクヤク先輩のように厳しい人も居るけど、僕はその厳しさを辛いとは思わなかったし、研究はとても楽しかった。
ただ、見習いで入ったとしても、そのまま本採用で残れるとは限らない。
宮廷魔術士としての採用は、術士長の裁量で、見習いの中で数年間の勤務を経て、術士としてやっていけると判断された人のみが拾われる。
何人か見習いがいても、そのうち採用されるのはほんの数名…まさか僕が、その中に入るとは思ってもみなかった。
元々、僕と同時期に見習いをしていた人間は、そんなに多くなかったのだが、殆どが2年以内に辞めてしまい、僕の他に唯一残った友人は、他にやりたいことを見つけて帝大へ進学した。
学業の傍ら、術研で見習い術士として勉強し、幼年学校高等科を卒業した15歳の時。
僕は時の術士長・タウラス先生に、宮廷魔術士入りを認められ、術士のローブを授かった。
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