第1章―少女ミズラ、海を超えて運命の場所へ―


「まったく、どこにでも変な人間っているものね…あっ」

帰ろうとして、ハタと気づく。
さっき男を蹴り飛ばした時の衝撃でか、サンダルの紐が切れていた。

これでは履いて歩けない。仕方なく、サンダルを脱いで手に持つ。

石畳の上を素足で歩くのは、気持ちの良いことではなかった。
土や草と違って、ヒンヤリとして気味が悪い。
しかも、堅い路面に合わないサンダルで歩き回っていたせいで、足そのものが痛くなっている。

胸に切れたサンダルを抱いて大通りに出る直前、ミズラは石畳の隙間に足を引っかけて、転び欠けた。

あっ、と思った瞬間というのは、何故かスローモーションで見えるものだ。
腕が使えず、顔が地面に近づいている。


きっと痛い―そう思ったが、衝撃はこなかった。

代わりに、ウェストの辺りを支えられるような感触。


「大丈夫?」

かけられた声と、抱き起こされる腕。顔を上げれば、知らない人が立っていた。

特に背が高いわけでも、特別美男子なわけでもない。
ただ腕がしっかりしていたことから、何かしら武術を修めているのは間違いないだろう。

空色の髪と、同じ色の瞳が、目につく…それだけなのに。

「よかった、無事みたいだね」

笑顔は、特別だった。

吸い込まれるような笑みに、視線が外せなくなる。

「靴が、壊れてるみたいだけど…」

「えっ、あっ、その…サンダルの紐が、切れちゃって…」

ミズラが必死に抱えるサンダルを見て、彼は「なるほど」と苦笑した。

「それじゃ、歩きにくいだろう。すぐそこに、なじみの靴屋があるんだ。案内するよ」

「いや、その、あたしは大丈夫…です、からその…」

言葉がドギマギしてしまい、上手く繋がらない。

それでも、彼に「歩けそう?」と問われると、素直に頷いてしまった。

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