間奏曲―短編集。 ミズラと、仲間と、彼らを取り巻く人々―
「バーラは、アバロンは初めて?」
「いいえ、2度目になるわ。兄がアバロン宮殿へ士官してからしばらくして、一度様子を見に来た時以来…その時、皇帝陛下やトータスさんともお会いして。
今回は、一族の代表として、こちらでの結婚披露宴に参加しに来ましたの。これからしばらく、アバロンに滞在させていただくから、宜しくね」
そして、小声で「本当は、わたくしも兄のように、アバロンで皇帝陛下にお仕えしたいのよ」と耳打ちする。
「こらバーラ、聞こえているぞ」
「あらお兄様、お兄様はまだ賛成して下さらないのね。お母様は、良いと仰有って下さったのに」
「父上は良いとは言っていないだろう。いくらホーリーオーダーとして認められたからといって、お前には宮仕えはまだ早い」
バルバラは不満そうな顔をするが、ミズラはそんなやりとりがおかしかった。
思わず笑いをこぼすが、トータスも同じように思ったらしく、遠慮無く声を上げて笑う。
「まったく、ジャックもとんだ石頭だな。こりゃ娘が生まれたりした日にゃ、完全に親ばか決定だ」
「茶化すなトータス、わたしは、未熟な妹にはまだ任務は早いと言いたいだけで…」
「はいはい、分かってるわよ、ジャック」
新妻ベスマに窘められ、ジェイコブは「とにかく、お前は観光が済んだらカンバーランドへ帰りなさい」と話を強引に終わらせた。
「分かっていますわ、お兄様。ねえミズラ、妹というのは不遇なものね。結局のところ、兄や姉には敵わないのだわ」
「まったくね。うちは逆よ。突然アバロンへ出て来いって言われたと思ったら、結婚するから代わりに部隊に入りなさいなんて。もう、勝手なんだから」
ねっ、と声を合わせる妹たちを見て、ジェイコブとベスマは顔を合わせ、苦笑するしかなかった。
そんなやりとりの中で、ミズラはふと気づく。
「(バーラは、誰かに似てるって思ったけど…そうだわ、アガタさんに似てるのね。口調とかは全然違うけど、なんというか…雰囲気がそっくりなんだわ)」
先帝アガタは、彼女の父の妹。
実の叔母なのだから、似ていてもなんの不思議もないのだが。
つかの間の邂逅から、すぐに帰らぬ人となってしまったアガタに、再び巡り会えた気がして、ミズラはほんの少し嬉しくなった。
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ホーリーオーダー・バルバラ。
ネラック城主の娘として生まれ、叔母に皇帝アガタ、はとこに皇帝ハリー、実兄は同じくホーリーオーダーのジェイコブ。
義理の姉妹でもあるミズラ帝の即位後、すぐさまアバロンへ駆けつけ、彼女を親友、側近として支えた。
ミズラ帝退位後は、祖国カンバーランドへ戻り、兄の遺児を養育。
本人は生涯独身を貫いたが、次世代の若者達を確かに育て上げた功労者として知られる。
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