間奏曲―短編集。 ミズラと、仲間と、彼らを取り巻く人々―
「(…あれ?よく考えたら、姉さん達の家からここまで、それなりの距離があるわよね?)」
ミズラはそう思い立ったが、走ってきたというのに、トータスは殆ど息を切らしていない。
「トータス、本当にここまで走って来たの?」
「当たり前だろ?歩いたって20分くらいの距離だし、走った方が早いかと思ってさ」
そんな軽口を叩きながら、サクサクと歩くその歩調に合わせると、ミズラは若干小走りになる。
「…軽い重装歩兵って、本当なのね」
「えっ、なに?」
「いえ、なんでもないわ」
彼に合わせて進んでいくと、思ったよりも早く目的地―姉夫妻の新居にたどり着いた。
すべての荷物を下ろし終えた後らしく、ちょうど家の前から馬車が去っていく。
その馬車を見送っていたジェイコブがこちらに気づき、「トータス、ミズラ」と手を挙げた。
「お待たせ。大事な妹をお連れしました。ま、術研まで呼びに行っただけだけどな」
「ありがとうトータス。それに、長いこと留守を守ってくれてありがとう、ミズラ」
「お帰りなさい、ジャック兄さん。長旅お疲れ様」
簡単に挨拶を交わして、ミズラは「姉さんは?」と訊ねた。
「中に居るよ。そうだ、紹介したい人がいるんだ」
ミズラは「紹介したい人?」と首を傾げるが、義兄に促されて中に入る。
まだ住み始めたばかりの新婚家庭は、未完成ではあるがどことなく温かい。
廊下を渡り、奥へ通されると、ベスマと共に談笑している、ミズラの知らない人物が居た。
自分と同じくら年齢の女性で、長い黒髪を背中に流し、シンプルだが清潔感のある白いワンピースを着ている。
ベスマがこちらに気づき、「ミズラ!」と席を立った。
「姉さん、お帰りなさい」
「ただいま、ミズラ。長いこと留守にしてごめんなさいね。大丈夫?寂しくなかった?」
心配性とも言える姉のいつもの言葉に、ミズラは何度目かわからない「もう、子どもじゃないんだから」の言葉を返した。
なんだかんだ言いつつ、そのお節介が嬉しくはあるのだが。
「トータスは、一度会ったことがあったよね。ミズラ、紹介するよ。わたしの妹のバルバラだ」
ジェイコブに促されて、座っていた女性が立ち上がる。
「バルバラと申します。初めまして、ミズラさん」
そう、細い白い手を差し出されて、ミズラも「こちらこそ」と手を握る。
改めて顔を見れば、ジェイコブと同じ黒髪黒目。
上品な顔立ちも、どことなく似ている。
「兄から、ずっとお話は伺っていました…ミズラさんは、19歳でしょう?わたくしは20歳で、歳も近いですし、仲良くしてただけますか?」
「ミズラで良いわ。こちらこそ仲良くしてね。ジャック兄さんの昔の話とか、聴かせてもらいたいわ」
「えぇ、もちろん。ではミズラ、わたくしのこともバーラと呼んでね。
わたくし、カンバーランドから殆ど出たことがないの。ステップのこととか、アバロンのこととか、たくさん聴かせ下さいてね」
両手でしっかりと握手して、2人の妹はすっかり意気投合したようだった。
それを見て安心しつつ、ジェイコブは「あまり、恥ずかしいことは話さないでくれよ」と苦笑する。