間奏曲―短編集。 ミズラと、仲間と、彼らを取り巻く人々―


ハリー帝のはとこである、ネラック城主ポールの息子・ジェイコブと、ノーマッドのハーンの娘・ベスマが結婚したのは、1179年の秋。

旧カンバーランド王家の嫡子と、ノーマッドの族長の長女の結婚式は、「民族と長城を越えた」と言われ、大勢の来賓を招き、カンバーランドの旧王都・ダグラスで華やかに行われた。

実は、そもそもベスマ・ミズラ姉妹の亡き母は、特に身分はないとはいえカンバーランド人であり、ミズラからしてみれば「なにを今更」という話なのだが。
別に、姉とジェイコブが結婚したところで、2人ともアバロンに住んでいるわけだし、あの長城が開かれるわけでもない。

とはいえ、おめでたいことには変わりなく、ダグラスでの式にバレンヌ帝として来賓出席し、当人たちより一足早く帰ってきたハリーから話を聞かされ、ミズラは早く当人達に会いたくてうずうずしていた。

「というか、ミズラさんはお姉さんの結婚式なのに、参列しなくて良かったんですか?」

例によって術研究所の一室。
魔術書をめくりながら、キグナスがそんなことを言った。

「いいのよ。だって、帰ってきてからこっちでも式…というか、結婚パーティみたいなことするんだもの。あたしは、そっちの設営というかセッティング任されてるし、何しろ堅苦しいの嫌いだしね」

そう言いながらも、ミズラはサクサクと手を進める。
ここへ来て、キグナスのローブの裾がほつれていることに気づき、修繕を申し出たのだ。

「でも、そんな忙しいときに面倒なことを頼んでしまって、すみません」

キグナスはそう恐縮するが、ミズラは「いいのよ、あたし針仕事好きなんだから」と笑った。

実際、ほつれの修繕だけでなく、取れかかっていたボタンまで付けなおしていく。
馬を乗り回せない今となっては、機織りと縫い物くらいしかミズラの趣味はないのである。

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