間奏曲―短編集。 ミズラと、仲間と、彼らを取り巻く人々―


「ダメですね、僕。昔から血を見るのが怖くて…ハクヤク先輩にも、よく言われるんですよ。『お前は才能はあるのに、そんなんじゃとてもじゃないが戦場には出せない』って。
術士として、陛下のお役に立ちたいって気持ちはあるんですが、こんなんじゃいつまで経っても戦えませんね」

そう自嘲気味に笑うキグナスに、ミズラは苦笑しつつ「まあ、誰にだって苦手な物はあるわよ」と言った。

「あたしだって、弓はできてもこうして術はからっきしなわけだし。キグナスはすごく頭が良いんだから、きっと色んなところで必要とされるでしょ。
戦うだけが力になるってことじゃないと思うわ」

「ありがとうございます。…そうですね、とりあえず、僕は僕にできることを頑張らないと」

自分の足でしっかりと立ち、背筋を伸ばしたキグナスは「ミズラさん、ありがとうございます」と頭を下げた。

「なんか、吹っ切れました。僕としても、いつかは克服しなきゃって思いはありますけど…とりあえず、今は術の研究に専念しないとですね。
あっ、その前に、ミズラさんに『生命の水』を覚えてもらわないと」

「あっ、そうだった…。早くしないと、姉さんたちカンバーランドから帰って来ちゃうわ」

ミズラは慌てて、手元の本を構え直す。

「ちょっと、もう一度練習したいから、キグナス実験台になってくれない?」

「いいですよ。でも、お願いですから傷つけないでくださいね?」

「いくらなんでも、自分以外の人間にそこまでやらせないわよ」

2人は笑い会って、向かい合う。

ミズラは覚えたばかりの手順を丁寧に踏み、精神を集中させた。



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魔術士・キグナス。

幼少期より術士としての教育をたたき込まれ、その才能を開花させた彼は、ハリー帝時代は主に研究者として活動。

ミズラ帝の時代には、彼女の「最も信頼できる人間のひとり」として、直属部隊に所属。
術士として、またその知恵と知識を生かし、参謀として活躍した。

 
ミズラ帝の退位後は、術研究所長及び術士長を歴任。
数多くの合成術の開発に携わり、後継者の育成にも力を入れたという。

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