間奏曲―短編集。 ミズラと、仲間と、彼らを取り巻く人々―
「お~い、キグナス?どうしたの?」
その目の前で手をヒラヒラさせると、キグナスは我に返ったようで「あっ、すみません」と勢いよく頭を下げた。
「急にどうしたの?顔、真っ白よ?」
「いえ、その…あの、ステップの人たちってみんな、そうやって毒消しするんですか?」
「えぇ。あと、傷口が膿んだ時とかね。切って膿出して、薬草貼っておしまい。
さすがに、小さい子は自分じゃできないから、親にやってもらうけど。ある程度の歳になれば、普通に自分でやるし」
「あの、当たり前ですけど…血、出ますよね?」
「そりゃ、まあね」
「これも当たり前ですけど…痛いですよね?」
「まあ、それなりに…でも仕方ないじゃない。背に腹は代えられないわよ」
「そ、そうですよね…アハハ、すみません変なこと言って」
「別にいいけど…。まあ、ステップは薬草の類は豊富だし、それほど傷も残らないけどね。毒虫なんかまだマシよ。
それより怖いのは、獣系のモンスターね。うっかり近づかれてキバでガシッとやられると、ホントに痛いし痕が残るわよ。
あたしも、リンクスに前歯でガブってやられたことがあって。
でも、まだマシね。うちの兄なんか、トリケプスの角が腕を貫通したことがあったわ」
「か、貫通って…」
ミズラは平然とそんなことを言うが、キグナスは完全に血の気が引いていた。
再び、ミズラが「どうかした?」と声をかけるのと同時に、フラフラと目を回して倒れてしまう。
「ちょっ、キグナス?!大丈夫?!」
慌ててその身体を抱え込むと、小柄で細身の彼は力なく「だ、大丈夫です…」と答えた。
「す、すみません…想像したら、なんだかとても痛そうで、気が遠くなって…」
「いや、痛そうというか痛いけど…じゃなくて、ホントに大丈夫なの?というか、あたしのせいよね、ごめん」
ミズラは謝るが、彼は首を横に振りつつ「いえ、こちらこそご心配かけてすみません」と力なく起きあがった。