間奏曲―短編集。 ミズラと、仲間と、彼らを取り巻く人々―


「まったくもう、ハクヤクったら!!姉さんたちが帰ってくるまでに、『生命の水』を習得しておきなさいとか、無理よ無理!!」

不機嫌に眉をひそめ、そう言い放つミズラに、黒髪の青年が「まあまあ、落ち着きましょうよ」とお茶を差し出した。

「ハクヤク先輩は確かにスパルタですが、その分習得は早いですよ。
それに、できないことをやれなんて言いませんから、ミズラさんには見込みがあるんですよ」

「フォローありがと。でも、あの人が鬼なのは変わらないわよ」

「いや…確かに、それは否定できないです」

青年はそう苦笑するが、ミズラは差し出されたお茶を啜るだけだ。

彼の名はキグナス。術研所属の若手術士である。
年齢は17歳だが、童顔なせいか幼く見え、少年とも呼べるだろう。

しかし、実力は本物だ。
その素質を初等学校時代に見いだされ、学業と平行して術研究所員として研究を重ね、すでにかなりの高等術法を修めている他、合成術の開発にも関わっている。

そして今回は、年齢も近いという理由からミズラの術習得のサポート係を任されたのだ。

「でも、大丈夫ですよ。基礎はもう理解できてますから、あとは実技だけです。
『生命の水』は回復技ですから、練習に気を遣うこともありませんし」

「ちなみに、例えば炎の術とか、どうやって練習してるの?」

「専用の練習小屋があるんですよ。熱や冷気に強い素材で作った。
…まあ、壊れにくいってだけで壊れないわけではないんで、その辺は予算との戦いですが」

その若干強ばった表情から、ミズラは「色々大変なのね」と悟った。

「でも、正直自分にかけてみても、効いてるのかどうなのかよく分からないのよね。
ちょっと鏃でつついて、血でも流してみたら…」

「ちょっ、危ないことは止めて下さいよ!」

「そう?でも、術法て便利ね。うっかり毒が体内に入っても、すぐ回復できるんだもの。一々刃物を探す必要もないし」

「…あの、毒と刃物と何の関係が?」

「えっ?だって、全身に回ったら危険じゃない。だから、傷口をざっくり切って口で吸い出さないと。
だから、村のみんなは遠乗りするときは必ず刃物を持ち歩ってるわよ。あたしは面倒だから、鏃でグサッとやってたけど…」

ここまで話して、ちらりと横を見ると、キグナスが完全に硬直していた。
しかも、視点が定まっていない。

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