第3章-後編 ―戦士ミズラ、聖なる塔を登る―
「そう見えないことは、自分でも自覚していたところだし、大して強そうに見えないって言われることにも慣れてるけど…さすがに、君のようなモンスターにまでそう言われると、さすがの僕も頭に来るね。
実を言えば、全く気にしてないわけでもないし」
唖然とした表情で…いや、少なくともそう見える顔で、敵は固まった。
「(えっと…実は、ちょっと気にしてたんだ)」
そう、残る4人の頭を同時に過ぎる。
「まさか…こ・う・て・い?」
今や、むしろ可哀想なほどに硬直した獣が、そう呟く。
「お望み通り、相手になろうじゃないか!!」
珍しくそう吐き捨てたハリーが、振り上げた大剣を良い勢いで振り下ろした。
その一撃をド派手に食らった獣は、その身体を吹っ飛ばされる。
「ちょっ、ちょっと待てオレにも構えってもんが…」
「"流し斬り"っ!!」
「だから待てって、『イルストーム』!!」
「みんな、『元気の水』よっ!!」
「サンキュ、ミズラ!!喰らえっ、"みじん斬り"!!」
「ぐわぁぁ…これでどうだっ、必殺の催眠をくら…」
「残念、すでに見切り済みだ。いくよ、"稲妻突き"!!」
「サポートします、『金剛力』!!」
「ありがとうハクヤク。覚悟!"無無剣"!!」
「ぎやぁぁぁぁ!!」
そんなこんなで。
この獣…もとい、ノエルの部下が倒されると、まるで煙のように他のモンスターは姿を消した。
こうして、テレルテバの街は平和を取り戻したのである。
…余談だが、後に皇帝直属部隊の面々はこう証言したという。
「長い付き合いだけれど、あの温厚なハリーがあそこまで怒ったのは、初めてみたよ」
「いやぁ、オレこれからは絶対ハリーを怒らせないって、心に誓ったぜ」
「というか、あれって軽く八つ当たりだったわよね?ハリーらしくないけど、たまには発散しないと疲れちゃうし。そう考えると、あのモンスターもちょっと可哀想だったかも」
「陛下が感情に走るのはいつものことですが、怒りをあそこまで露わにしたのは、あれが最初できっと最後でしょう」
ちなみに、本人は「できれば忘れて欲しいな」と苦笑したそうである。